「羊と鋼の森」

 北海道を舞台に、静寂の中に響くピアノの音が印象的な作品。原作は2016年、本屋大賞を受賞した小説として記憶に新しい、ピアノの調律師というある種、特異的な世界の映像化です。個人的には、観た同じ時期に引越しのため、長年家にあったピアノを手放すことになったため、かなり感慨深かった作品。木で作られたピアノの内部は繊細ですが、ピアノの天板を開けると弦(鋼)とそれを叩くハンマー(羊の毛をフェルト状にして作られている)で成り立っているのが、すぐ見てとれます。その弦や叩くハンマーの当たり具合を微妙に調整して、正しい音域に導いてくれるのが調律師で、ピアノのお医者さんといったお仕事です。うちのピアノは梅雨時には必ず、あるキーが音がつまった感じになってしまうことがあった。いつもの事で自分でどうにかしたいが、専門家の調律師さんにみてもらわないと勝手に触るともっと狂っていくため、おかしいまま弾いていた時期がありました。こんな風にピアノは事あるごとに調律を専門家に頼まなければならないし、しかも大きさも重さもあるため移動も大変と…、ちょっと手間のかかる大型楽器と言えるのかもしれない。映画の中では、プロの弾き手の要望に合わせて、例えば弾く曲に合わせて、明るいタッチの音が出せるようにと、四苦八苦しながら調整する調律師の秘密の悩み事も描かれている。まったく地味な裏方の仕事ですが、彼らがいないと、すばらしいピアノコンサートは望めない。こんな仕事に魅入られてしまった青年を、恋愛ドラマを多数演じている山崎賢人が演じている。仕事への喜びや苦悩、愛情やプライドを、真摯に向き合って演じている姿が、朝ドラ(家業の漆器作りに懸命になる青年役)以来でいい。(スコープ・133分・2018年6月8日公開)