湖畔に浮かぶ孤島の楽園。生い茂る濃い緑の美しさ。
花々と山々、湖上に鳴く鳥の声。
蒸気が立ち昇るが如く色めき香り立つのは、
少女たちの汗、そしてふたりの秘めやかな官能。儚い願い。


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『中国の植物学者の娘たち』 植物学家的中国女孩
2005年/カナダ・フランス/98min
監督: ダイ・シージエ
出演:ミレーヌ・ジャンパノイ、リー・シャオラン


シネマな時間に考察を。-chu1.jpg 前作『小さな中国のお針子』で出会った美しい映像は、未だに幾つかの印象的なカットとともに瞼の裏に思い起こすことができる。ダイ・シージエ監督は紛れもなく映像作家に違いない。


前作以上の瑞々しき映像美にまずは心、奪われる。叙情的な空気感を醸し出しながら、少女特有のまろやかな芽生えを紡ぎ出すようにゆったりと描き、山間部の美しい風景を惜しみなく画面いっぱいに取り込んでいる。湖上の植物園を舞台とし、とにかく目を見張る緑の美しさと、リー・シャオランの華奢で耽美な肢体にかかる黒髪のオリエンタルな東洋美。緑の葉に降り注ぐ採光の取入れ方はトラン・アン・ユン監督を彷彿とさせる。中国で撮影許可が下りなかったためベトナムで撮影したと知り納得。雰囲気はむしろベトナム映画そのもの。


幻想的なロケーションも多く、船に乗り洞窟を抜けた先に広がる婚礼祝いのシーンなどは視覚的にとても素敵だったが、それ以上に素敵なのはやはり温室のシーン。緑の薬草を広げて横たわるアンの滑らかな裸体、立ち昇る白い蒸気。幻想的な音楽がその場を包み込む。なんて美しいんだろう。薬草の香りすら漂ってくる気がする。その蒸した薬草の匂いに陶酔し、まるでスパを受けているかのような極上のリラクゼーションを感じる。今すぐアンのとなりに横たわり、深く瞑想してみたい衝動すら覚える。

幼くして母を亡くしたせいかもしれない。お互いどこか女性に対する“飢え”を抱えていたからこそ、友情を越えた域で結ばれたいと願ったのだろう。封建的な父親や男臭い軍人の夫からは決して得られない清らかな愛を欲して。身も心も安らげる、全て裸になれる相手を求めた結果。ただ、それだけ。なのに何故、裁かれねばならなかったのだろう。


ふたりの遺灰は混ざり合い、ゆっくりと湖に溶けてゆく。

一生離れないでいられるための108羽のはばたきが耳に蘇る。

夏の日に儚く消えたふたりに約束された、永遠。
ふたりの願いは、叶えられた。

『中国の植物学者の娘たち』:2010年3月23日DVDにて鑑賞