【セトウツミ】 | シネフィル倶楽部

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洋邦ジャンル問わず最新作から過去の名作まで色んな作品ついて、ライトな感想や様々な解釈・評論を掲載orつらつらと私「どい」こと井戸陽介の感想を書く場にしたいと思います!観ようと思ってる作品、観たい過去の作品を探す時とかの参考書みたいに活用してもらえればと♪

NEWオススメ最新作(※ネタバレなし)

予告を観ていただくと分かりますが、なんともユルい映画です。
ユルい2人がユルく会話をする「だけ」の映画。

…と思っているとチラリチラリと劇中に垣間見える、生っぽい人間模様。

そのバランスがとても心地いい。

この映画を語る切り口は大きく3つ。

『大森監督は四季がお好き』
ストーリーの無い物語に、物語を与える。
起承転結の無い話を、きちんと締めくくる。

『映画音楽はタンゴでシュールに』
この映画で「天才だな!」と思ったところの一つです。
そのハマり具合といったら♪

『瀬戸と内海は菅田と池松』
映画を観終わった後、この2人だからこそ成立したんだな、と痛感せざるを得ません。

ではでは改めて。

「喋るだけの青春」、開幕です。

『セトウツミ』
(2016)

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こういう作風や作り方をした作品はすごくピンポイントゾーンを狙いにいっているので、ハマるはまらないがはっきりするのかと思います。

上映時間75分の中で、笑い切るか全く笑えないか。

でもハマるとすごいですよ、この作品。
作り自体が画期的だし、笑えるし、主演の2人とそのキャラクターは愛おしいし。

自分は初日に観たので、そこはやはりと言うべきか非常に作品を好きだと思う方々で劇場満席でした。

こういう作品なので、劇場がこの上なくリラックスしたムードになり、まるでリビングで観ているかと錯覚するくらいアットホームな雰囲気になりました(笑)

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■『セトウツミ』あらすじ
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…は特にないです(笑)

2人が喋るだけ(たんま〜に他の人物の描写があるくらい)だから(笑)

その喋るコーナーが小説なら短編のように、芸人のお笑いライブDVDならコントタイトル別のように、エピソード風に区切られて映画が進んでいく感じです。

それらのエピソードタイトルをここでご紹介。
念のため、劇中での順番などとは異なるようバラバラに記載しています。

・セトとウツミ
・先祖と子孫
・イカクとギタイ
・出会いと別れ
・内海想の出会い
・樫村一期の想い
・瀬戸小吉の憂鬱
・アメとムチ

ハリウッドによくあるヒットした後に、ビギンズ的な立ち位置のエピソード0にあたる物語が創られる作品がありますよね。

本作はなんと、映画の途中でエピソード0が差し込まれております(笑)

第1話〜エピローグまでの構成がすごく面白いですね。
なんというか、一話一話の中で起承転結がない分、第1話〜エピローグで起承転結をつけそうなものですが、全く無視w

この観客に媚びない感みたいなものがすごく好きですw

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■プロモーション用特報動画
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あらすじの代わりに、プロモーション用に公開されている動画2本をご紹介。

※これらのシーンは劇中には含まれていません。

特報① けん玉


特報② タイミング


特報③ スタンディングオベーション


これは劇中の短編をそのまま抜き出してきただけといった感じですので、これを観て笑えたそこのアナタ。
今すぐ映画館に行ってください(笑)

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「映画館行け言うてるで」
「んー、ここで喋ってる方がええわ」


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■基本喋ってる二人(登場人物 / 出演者)
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こういうユルい作品ってもっと人を選べば明るいトーンで笑える作品として制作し宣伝していく事も可能だと思うんです。

でもキャスティングを見てみると、池松壮亮に菅田将暉。

どちらも陰がある役や癖のある役、一筋縄ではいかないアクの強いキャラクターばかりを演じてきている役者さんです。

監督に大森立嗣、主演にこの2人を据えた理由が映画を観終わった後、とても腹落ちしたのを覚えています。

基本会話だけなのでテンポや演技の技量が求められるので、今演技派として評価されている2人のキャスティングは観る前も納得でしたが、映画を観終わった後、改めて「この2人だからこそ成立したんだな」という事を実感できます。

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内海
クールなインテリメガネ。

高校を、大学へ行くまでの無駄な3年間だと思っている。
そして世の中をシニカルに見つめるひねくれ者。内向的。

しかし、瀬戸に対しては厳しく鋭いツッコミを入れつつ温かく見守っている感じが非常に好感持てます。

瀬戸
ちょっとおバカなツンツン頭。

彼が何故内海と同じ高校に入れたのか。

多分スポーツ推薦でしょう。

愛すべきおバカ、って感じのキャラです。
でも目の前のことに動物的に反応する、これを一般社会では「素直」と呼ぶ場合もあると思いますが、彼はこれにあたります。

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それにしても、この2人の演技の技量というか幅みたいなもの、とても好きです。

役者バカな匂いがするから。

そんな2人は今秋、話題の映画『デスノート Light up the NEW world』で再共演!
それぞれの役柄も配役も含めてワクワクが止まりません。

今一番待ち遠しい作品。楽しみに待ちます。

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「先にこっち観て欲しいわー」
「ほんまやー」



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■大森監督は四季がお好き
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会話だけの映画を作っちゃおうという、なんとも奇をてらったようでとてもシンプルな作品に挑戦したのが、大森立嗣監督。

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『まほろ駅前多田便利軒』『さよなら渓谷』などの監督さんです。

この方、知ってる方も多いと思いますがあの俳優・大森南朋のお兄さん。

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個人的には『まほろ〜』や『セトウツミ』のようなバディものが上手なのかなぁという印象です。

そしてその描き方として特徴的なのが「登場人物を、四季が巡る中で描く」ということ。

映画が描く時間というのは本当に様々です。

数日間や数ヶ月、数年間を描く作品もあれば、シリーズ通して現在過去未来で1955年〜2015年までの60年を描く作品もある。
かと思えば、96時間程度やテロが起こる前後の1時間足らずを描く作品もある。
(どの作品か分かりますか?笑)

大森監督は邦画を描く上でその四季の1サイクルの中で=1年を通して登場人物を描く、という事をとても大事にしているのかなという印象です。

日本人は四季とともに生きている感覚が他の国よりも強いと言われています。

春に出会い、夏に楽しみ、秋に憂い、冬に泣く。
そしてもう一度迎える春でもう一度温かみを取り戻す、幸せになる。

各季節に対する感情や印象、想いみたいなものはもちろん千差万別ですし、上記の印象もほんの一部です。
ですが、四季というのはそういう感情を促すなどの効果があり、それだけで何かを「物語る」立派な装置です。
時期設定も同じ事が言えますね。

先述の通り、本作にはあらすじや全編通しての物語みたいなものはありません。

だからこそ。

だからこそです。

そこでこそ、この「四季」が大事になってくる。

ストーリーの無い物語に物語を与える。
起承転結の無い話をきちんと締めくくる。

この、四季の効果をふんだんにこの映画に取り入れている点。それが個人的な感動ポイントです。

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■映画音楽はタンゴでシュールに
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この映画のすごいところ、「天才だな!」と思ったところに、この劇伴にタンゴをあてているという事が挙げられます。

そのハマり具合といったらもう♪

なんかこう音楽がシュールな空気を醸し出していて、この2人のことを笑っていいんだよ?っていうのを言っているというか、許し促してくれている気がします。

後は75分の物語全体を通して物語がある訳でもないし、会話だけで紡がれていくので、起承転結のように区切りがある訳でもない。

その中で劇中の各ポイントやオチ、エピソードの始まりと終わりなどの区切りをもたらすという大きな役割を果たしています。

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■あとがき
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繰り返しますが、この2人だからこそ成立した映画。

言葉遊びで喋り倒す二人の明るさの後ろに見え隠れする、それぞれの複雑な家庭環境やバックグラウンド。

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でもそれをユルい会話の端々だけに入れてチラ見させるという妙技で表現しています。
多分真面目に語ると楽しくはない話を、そうやって会話に少しずつ小出しで挟むことで観客を傍観者でいさせてくれる。それでいて楽しませてくれる。

そんな微妙なバランスで成り立たせられるのは、この二人だからこそです。

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劇中での好きなセリフや言葉遊び、やり取りがいっぱいありますが、最後に個人的に好きなものを書いておきます。

二人の初対面シーン
瀬戸「…」
内海「…」
瀬戸「お前誰やねん!」
内海「それ、まぁまぁこっちのセリフでもあるぞ」

とあるシーン
「二度聞き史上、一番しょーもなかったわ」

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■予告編
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