№35
日付:2013/12/21
タイトル:ペコロスの母に会いに行く
監督:森崎東
劇場名:渋谷ユーロスペース 2
パンフレット:あり(\600)
評価:★★★☆
いつものように何の事前情報も持たずに観に行ったら、ボケた母親の世話をするさえないオッサンの奮闘記だった。昔ながらの日本の喜劇映画の匂いがスクリーンから漂い続け、少し距離を置いたまま感情移入を拒みながらの鑑賞。でもそんな抗いも、とても最後まで続かなかった。
御年86歳の森崎東監督が出身地長崎を舞台に、老優たちの力を借りながら長年培った人情喜劇のエッセンスを駆使して作り上げた本作。
ボケが進む母みつえ(赤木春恵)の世話に悪戦苦闘する息子ゆういち(岩松了)の日常の悲哀がユーモアたっぷりに描かれる。そのくせ、ここ一番のエピソードではグッと泣かせる。
ボケが進む母がその人間性を失くしつつあるかのようでいて、実は彼女の心の中にはその生きた証がめくるめく記憶として灯っている。そんなみつえとゆういち一家に訪れる奇跡の瞬間。もう涙が止まらない。
岩松了さんには参った。役者力、そしてスタッフ力の骨太さも如実に感じる。「東京物語」を今の時代に作るのなら、こういう作品になるのではなかろうかとすら思えた。リメークなんかよりよっぽどその必然性を感じる。
戦中戦後の苦境を乗り越えた世代からの苦言を封印し、各々の世代に想いと希望を託したかのような森崎監督の筆致と、戦後の娯楽を支えた日本映画の底力に最敬礼したくなりました。
そんな中でエンドロールの終盤、一際大きく紹介される「協賛:ソニー生命保険株式会社」の文字。クライマックスでこの会社の看板が妙に焦点合ってると思ったら。業種が業種だけにそのあざとい介入振りには興醒めさせられた。同時に現実の問題解決への無力さも痛感します。