昨年末の日経夕刊で文化部の白木緑さんが「凍えるアート映画」と題して掲載した記事。

この3年で渋谷のミニシアター8スクリーンが消えたそうです。


「シネコンで作品を選ぶのが当然の時代。1館で1映画という形態はウケない」(角川シネプレックス久保田取締役)

「若者がミニシアターやアート系映画に無関心になった」(キネマ旬報映画総合研究所掛尾所長)


といった談話を軸に、今の若者が大手メディアが資本参加の上大宣伝を繰り広げる娯楽作品に流れた結果、"アート系映画"なるジャンルを中心に上映しているミニシアターが客離れを起こし、衰退の一途を辿っている・・・・かのような記事。


3年で8スクリーンが消滅していると聞くと、確かにその手の単館の厳しい経営状況を連想してしまいそうになりますが、本当にそうなのでしょうか?更には、上記の映画関係者のもっともらしい談話は的を射ているだろうか?


そもそも気が付けば「え、こんな所にも?」というぐらいマイナーな単館劇場がそこら中にあるというのが、ここ最近そういう劇場を利用する機会のある私の印象です。では消える一方でここ数年の渋谷の映画館の開館状況はどんな感じだったのでしょうか?


90年代中頃、知り合いのアジア映画好きの女性は、好きな映画を観たくて福岡まで「アジア映画祭」を観に行ってました。その頃に比べ、今どれだけ容易にこのエリアの作品を観る事が可能か。当時に比べ、観る側のニーズに応える懐は、格段に広がっている。


この記事で訴えている危機感は、本当に妥当なのだろうか・・・・?



もし仮に日経記者の仰る通り、ここ数年は衰退の傾向にある・・・・としても、私は上記の関係者の認識とは別のところに、大きな要因があると思います。


先ず常々感じるのが、ミニシアター系劇場の「映画を観賞する」施設としての環境の悪さ。

多くのシネコンが昔じゃ考えられないような居心地と観心地の良さを実現し、もはや前の観客が邪魔で観辛いなんて事があり得ないご時世なのに対し、多くのミニシアターが未だこの点をクリアしていない。

その台頭時期には設備面の良さが"売り"だったのは今は昔。もはや完全にシネコンの後塵を拝しています。


次に、今の邦画は優秀な監督さんが数多く台頭し、昔のATGのような独りよがりの作品とは一線を画す実に面白い作品が多い。

TV局が制作サイドに回った上で莫大な宣伝攻勢をかけ視聴者を誘導する手法は、かつての角川作品のようでもはや食傷気味ですが、その一方で小気味良い小作品も数多く生まれている。

ではミニシアターで上映している外国作品はどうかというと、少なくとも私が観に行った中では満足度が決して高くない作品に出会う確率が結構高いです。


つまりは、単にスクリーンが観辛い映画館で、つまらない作品を上映しているから、お客が離れていってるだけじゃないのか?


ミニシアターだ、"アート系"だと、そんなところを拠り所にしているのはもはや興業主側だけで、観る側はネットや口コミで純粋に面白そうな作品を探しています。その作品がどこの劇場でやっているかなんてのは後からついてくる話。シネコンに着いてから作品を選ぶ?そんな客がどれだけいるというの?

くだらないスノビズムは消滅して当然で、「ミニシアターで上映している作品=質が高い作品」だなんてもはや誰も思ってやしない。むしろ興業主側にこそ、そんな自惚れた意識が残っているから、上記のような問題を解決する努力すら怠っているのではないのでしょうか。



正直今の渋谷からミニシアターが幾つか消えたくらいで、我々観客に作品鑑賞面での支障が出るという気がしません。むしろ閉館ラッシュはある意味"淘汰"として機能している感すらある。


ただそういう状況であるからこそ、より良い方向に集約されて欲しいです(=良い映画館が残る)。

シネセゾン渋谷を消滅させ、ヒューマントラストシネマ渋谷を残すという事業主の方針などは、これに逆行した動きとしか思えません。

 

映画の記憶・・・と記録-THEATERS IN SHIBUYA