森の中で夫婦が山賊・多襄丸(たじょうまる)(三船敏郎)に襲われた。妻(京マチ子)は強姦され夫(森雅之)は殺される。夫の死体を発見した焚き木売り(志村喬)は検非違使(刑事兼裁判官)で証言。また旅法師(千秋実)も妻と生前の夫を見たことを証言。放免(役人)(加東大介)は多襄丸を捕らえ検非違使に出頭させ証言させる。その後、強姦された妻も出頭し証言する。また巫女(本間文子)の力を借りて殺された夫の証言も巫女の口から聞く。羅生門に雨宿りにきていた下人(上田吉二郎)は、焚き木売りと旅法師からそれぞれの証言内容を聞かされる・・・。
「わかんねぇ、さっぱりわかんねぇ」いきなり志村喬(たかし)のセリフから始まるこの作品。私が初めて観たときは、映画が終わるまで終始唸りっぱなしだったのを覚えています。『七人の侍』とはまた別の意味で度肝を抜かされました。題名からわかると思いますが、本作の原作は芥川龍之介の「羅生門」と「藪の中」、しかし小説「羅生門」は題名と廃墟と化した羅生門の描写、荒廃した全体の雰囲気だけに使われており、実際の物語は「藪の中」。
登場人物は全部で8人、検非違使は姿も声も出てきません。何とも不思議な映画でありながら観るものを確実に引き込んでしまう脚本と映像美、それに音楽。最初に志村喬が死体を発見するまでを描いた森の中を進んで行くシーン。ただ森の中を歩いているだけのシーンなのにグイグイ引き込まれ、観た人は誰もが激賞してしまうでしょう。このシーンを観るだけでも価値があります。
また本作は『荒野の七人』、『荒野の用心棒』と同様、ポール・ニューマン主演映画、『暴行』(1964年)というタイトルでリメイクされています。
黒澤明作品では2本しかない大映映画(『静かなる決闘』(1949年)と本作)なのでDVDに字幕が入ってなくセリフが聞き取りづらいのが難点ですが、絶対に観てもらいたい作品です。
1951年ヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞作品。