夫が、父が、倒れた
そんな状態なのに
家に帰ると、私も子供たちも普通に時間を過ごした
亡くなったというわけではないからかな
大変な状況でも、意外と普通に過ごすものなのかな
もしかしたら表向き、
あえて普通にしてたのかもしれない
それぞれ息子も娘も思うことがあったのかもしれないけど、それを語り合うことはなかった
私は洗濯やご飯作りの家事をすることで
自分の心の平静を保ってたように思う
夕飯のあと、テレビを観て家族で笑うこともあったくらい、普通の日常を送った
けれど、1人になると
私は泣きっぱなしだった
夫の洋服が洗濯したまま、畳まずに置いてあり
夫の持ち物が至る所にある
実はこのところ私たち夫婦は仲が悪く
愛想を尽かして、寝室を別にまでしていた
それなのに
夫の存在が恋しくて寂しくて
泣いてばかりいた
借金のことで
夫を責めることばかりしていた近年
それでも穏やかな時は
よく会話をしている不思議な夫婦だった
私の会社の愚痴をよく聞いてくれて
冗談を交えて私を笑わせてくれた
今になって、そんな夫のいいところばかり思い出す
近所のスーパーによく2人で行き
重いエコバッグ は当たり前のように持ってくれた夫
そのスーパーに一人で行く気持ちにはなれず
少し遠いスーパーに行くようになった私
道を歩いていても
夫がふいに現れるような気がする
私の帰りを待ってくれていたいつもの夫が
にこりと笑って顔を出す気がする
財布の中身を見ると
あの倒れた日のレシートが出てきた
そういえば、夫はあの日スーパーに行っていたはず
そのレシートには、私の好きなリンゴゼリーがあり
それを見たら込み上げてくるものがあった
翌日から仕事に行かなければならなかったけれど
とても仕事をする気にはなれず
誰かに話しかけられたら泣いてしまいそうだったし
いろいろ考えて
会社に連絡をして
1週間ほど休みをもらった
事情が事情だったので、そこは大丈夫だった
翌日病院に荷物を持って行ったけれど、
主人の様子に変化はなかった
たくさんの管に繋がれて
眠っているだけ
看護師さんから
搬送当時に持っていた物を渡された
見慣れた夫の持ち物にまた涙が出そうになる
そして、看護師さんが「これ」と言って渡してくれたもの
それは名前入りのジップロックに入った結婚指輪
私は早々に外してしまった指輪
それなのに
夫は指輪を外すことはなかった
倒れるその日まで
お礼を言って受け取り
病院のエレベーターで
私はまた泣いた