スタートラインが遠かった、準備不足の夏/前編 | 未来色スケッチ

スタートラインが遠かった、準備不足の夏/前編

ようやく自分の中で消化できてきたので、少しまとめを。
つまらない自分語りかもしれないので、興味ない人は全力スルーで頼む。

*  *  *

何か月も前からずーっと楽しみにしていた富士登山計画、
今年は残念ながら遂行できずに終わった。

理由は後述するとして、先週末はその悲しみだとか悔しさだとか、
ショックに打ちひしがれていて「これからどうやって生きよう」とまで
思ってしまっていた(まあちょっと大げさではあるけど)。

初めて富士山に登ったのが一昨年のこと。
富士山に初めて登ったという人の話を聞くと、
もう二度と登りたくないという人と、
また行きたいという人にはっきり二分されるけれど、私は後者だった。

軽い高山病の兆候は出ていたし、決して楽な道のりではなかったけど、
またこの目で山頂からの景色が見たいとずっと思っていた。
前回見たご来光がすっきりと晴れた空ではなかったし、
剣ヶ峰に行く余裕もなかった。山頂でもゆっくりする時間がなかった。
これは次回のお楽しみだなぁと思うことにしていた。
(体力がなくて回りきれなかったというのは当然ある)

昨年はスケジュールがうまく組めなくて
宝永登山をするに留まってしまったので、
今年はなんとしても登りたい、と思っていた。
まわりに富士山に登りたいという人が一人もいなかったので、
この際だから単独登頂してやろう、と何か月も前から意気込んでいた。

なんとなく、日々をだらだらと過ごしてしまうことが多くて、
何かひとつのことをやり遂げてみたい、という気持ちと
富士登山シーズンがちょうどタイミング的に合っていたというのもあった。
行くなら今(今年)しかない、くらいの気持ちだった。
来年になったら富士登山熱も冷めているかもしれないからだ。

その決意が曇りだしたのが、富士登山予定の一週間ほど前。
週間予報を見るとお天気が悪そうな感じだった。
といっても、富士山の天気予報というのはあまりあてにならないことも多くて、
予報では曇りだったのに晴れたり、逆に降る予定がなさそうなのに雨だったり、
ということがあるのが山のお天気。
100%天気予報を信じる気はなかったけれど、天気が悪いのは困るなと思った。

その頃から、毎日富士山のお天気や登山者の実況を見ていると、
例年よりも天候の悪い日が多く、ご来光が見られなかった!という日が
続いていて、夜は雪が舞う日もあったらしい。
あれだけ意気込んでいたはずなのに、だんだんと気持ちが後ろ向きになってきた。

山行というのは、気持ちだけで押せるものじゃない。
すべて自己責任で、決行も、リタイアも、休憩も、全部自分次第。

ある意味、前回の富士登山の時のようにツアーでの参加だったら
よほどの荒天ではないかぎり中止になることはないので、
ご来光が望めなくても雨が降っても決行になる。
どうしても悪天候の中登りたくなければ、
キャンセル料を払ってツアーをキャンセルすればいいのだけど、
多少のリスクを背負って登るのとキャンセル料を支払うのと
どちらを取るのか、っていう話になる。

今回はツアーの時間に縛られるのが嫌で自分で往復と小屋を手配していたので、
直前まで決行するか悩んだ。
気圧の変化に弱いから、悪天候はできれば避けたい。
でももう一度富士山の山頂に立って、あの場所からの景色が見たい。
登っても絶景が望めるかどうかは運次第で、
確率でいえばかなり厳しい天候が予想されていた。
でも、悪天候予報が外れてもし絶景が見られたら…

毎日脳内で「たら・れば論」を繰り返した。
繰り返したってしょうがないってわかっているのだけど、
考えずに過ごすことができないくらい、頭の中が山行のことでいっぱいだった。
降雨情報やライブカメラ、ウインドプロファイラを毎日チェックした。
チェックしたところで当日の状況なんてわかるはずもないのに。

キャンセルすることは、なんだか負けるような気がしていた。
なんだかんだと理由をつけて、山行から逃げようとしているのではないか。
弱い自分を認めてしまうことになるんじゃないのか。
ネガティブな解釈ばかりが脳内を占めて、毎日悶々としていた。

最終決断は、山行予定の2日前だった。
富士吉田ルートの小屋については、富士山吉田口旅館組合の宿泊約款に準じて
キャンセル料が発生し、前日キャンセルで80%を持っていかれる。
予約は素泊まりだし、全額払ってもそこまで痛手ではない。
でも、一本でも多く山行を楽しみたいので、キャンセル料を安くすませて
他の山行の交通費に回したりというやりくりもやっぱり必要かなと思ったりした。
そう思っている時点で、すでに意志が弱いなぁとも思ったけれど。

ここで自分が驚いたのは、中止を決めるのにパワーが必要だということだった。
予備日が設定できたり、決行日をずらす余裕があればキャンセルも難なく
できるのだろうけど、初心者でもできる富士登山シーズンはだいたい8月末までだ。
9月になると営業している小屋も少なくなるし、気温も下がるので
山行自体の厳しさは増すともいわれている(未体験だけど)。

予定していたのが8月末だったので、これ以上後ろ倒しにすることができなかった。
つまり、今年の登頂は絶望的ということになる。

キャンセル処理なんてメール一本でできるのだけど、
この一通のメールを書くのに深夜まで苦悶し、
最終的に出社前にキャンセル依頼のメールを書いた。
正直、ちょっと胃が痛くなるくらいだった。
今思えばアホらしいけど、そのくらい真剣に悩んでいたのだ。

中止になるショックと、楽しみがなくなってしまったことでひどく落ち込んで、
私自身ここまで富士登山を楽しみにしていたのかと、ちょっと驚いた。
この夏一番のイベントになるであろうことは予測していたけれど、
中止することでここまでダメージを食らうとは思っていなかったのである。

後編につづく。