オーラルフレイルとは
(1)オーラルフレイルの概念
8020運動の達成者は、すでに5割を超えています(2016年調査)。こういった状況を踏まえ、高齢者の快適な食を支えるためには、歯の本数のみでなく、それに加え“口の働き(口腔機能)の衰え”を軽視しないことの重要性が注目され、「オーラルフレイル」という概念が提案されました。オーラルフレイルとは、直訳すると「口の機能の虚弱」となりますが、これは、口に関する“ささいな衰え”を放置または適切な処置がなされてないことにより、口の機能低下、食べる機能の障害、さらには心身の機能低下までつながる“負の連鎖”に対して警鐘を鳴らした概念です。
具体的には、日常生活における口のささいなトラブル(滑舌低下、噛めない食品の増加、むせ、など)、またこういった状況を放置(もしくは軽視)してしまうと、次なる段階として、食欲低下や食品多様性の低下に至ります。さらに、口の機能低下(咬合力低下、舌運動機能低下など)が生じ、低栄養、サルコペニア(筋肉減少症)のリスクが高まり、最終的に食べる機能の障害を引き起こします。
Ⅰ.口の健康への意識低下
歯の喪失リスクの増加(歯周病・齲蝕)
↑
口の健康への関心(口腔リテラシー)の低下
↑
社会的・精神心理的フレイル/自発性の低下
↑
ポピュレーションアプローチ
Ⅱ.口のささいなトラブルの連鎖
↓
噛めない食品の増加 滑舌低下 食べこぼし むせ 食欲低下
↓
食品多様性の低下
↑
地域保健事業 介護予防による対応
Ⅲ口の機能低下
↓
口腔不潔・乾燥 咀嚼機能・咬合力低下 口唇・舌の機能低下 嚥下機能低下
↓
低栄養 サルコペニア フレイルの重度化
↑
地域歯科診療所で対応
Ⅳ食べる機能の障害
↓
咀嚼障害 摂食嚥下障害
↓
要介護 運動・栄養障害
↑
専門知識を持つ医師・歯科医師・多職種連携による対応
(2)誰しもが避けられない自然な衰え(老化)とオーラルフレイルの違い
左の図で示したオーラルフレイルの現象は、誰しも避けられない老化として捉えることもできます。しかし、自然な衰えである老化とオーラルフレイルの違いは、オーラルフレイルが社会的問題、精神心理的問題と複合して生じる「不自然な衰え」であることです。したがって、適切な対応により、オーラルフレイルは回復可能であることがわかっています。一方、オーラルフレイルを放置すると、生理的老化に加え、さらに口の機能の低下が進んでしまいます。この点が、自然な衰え(老化)とオーラルフレイルとの大きな違いです。以上を踏まえ、オーラルフレイルは以下のようにまとめられます。
「老化に伴う様々な口腔環境(口腔衛生など)、歯数および口腔機能の変化、さらに心身の予防機能低下も重なり、口腔の健康障害に対する弱性が増加し、最終的に食べる機能障害へ陥る一連の現象および過程。」
ここで示したように、オーラルフレイルは、これまで、老化、廃用として解釈されていた口の機能低下を可視化したモデルともいえます。口の機能低下(口腔機能低下症など)および食べる機能の障害(咀嚼嚥下機能障害など)は、オーラルフレイル概念を構成する一要因として位置付けられます。