歯科にも知ってほしい「新型タバコ」の本当のリスク

 

日本では「世界最大の新型タバコ消費国」として現在も新型タバコの普及が続いています。 

しかし、新型タバコは果たして従来の紙巻タバコに比べ害が少ないと本当に言えるのでしょうか?

「新型タバコとは何か」「新型タバコの何が問題なのか」「歯科医療従事者にできること」について、厚生衛生・疫学がご専門の大阪国際がんセンター田淵貴大先生にお話しになります。

 

「新型タバコ」って何?

これまでとはタバコといえば紙巻タバコのことでした。紙巻タバコはタバコの葉を紙でくるんで先端に火をつけて燃焼し、発生した煙を吸い込みます。

一方、新型タバコは、一般的に加熱式タバコと電子タバコのことを指します。加熱式タバコは紙巻タバコのようにタバコの葉に直接火をつけるのではなく、タバコの葉を加熱してニコチンなどを含んだエアロゾルを発生させる方式のタバコです。

電子タバコは、吸引器に専用の液体(リキッド)を入れて、コイルを巻いた加熱器で熱することで発生したエアロゾルを吸い込みます。国内では加熱式タバコが大きなシェアを持っていて、2020年4~6月時点で加熱式タバコの市場占有率は26%まで高まっています。

アメリカの大手タバコ会社は2021年5月に日本での紙巻タバコの販売を10年以内に終了し、加熱式タバコの販売に重点を置く方針を示すなど、紙巻タバコからの移行が加速度的に進んでいきます。

実はあまり知られていない「新型タバコ」の有害性

「新型タバコには害がほとんどないって本当ですか?」私はこれまで何度もこの質問を受けてきました。

加熱式タバコの販売会社の広告を見ると「有害物質を90%オフ」などと書かれています。

さらに、テレビの人気バラエティ番組で加熱式タバコがクリーンで好感が持てるイメージで紹介されたこともあって、「新型タバコ=害が少なくてオシャレ」という認識を多くの人が持つようになったと考えられます。

しかし、現時点で報告されているさまざまな研究結果をもとに考えれば「新型タバコを吸う人は紙巻タバコを吸う人と同等の健康被害を受ける可能性がある」というのが私の見解です。加熱式タバコには、基本的にタバコの葉が入っています。

タバコの葉にはニコチンも含まれていますので、それを吸い込むという意味では紙巻タバコと同じです。

ただ、紙巻タバコの場合、約900℃で「燃焼」させるのに対して、加熱式タバコは約300℃で「加熱」させます。この「燃焼」と「加熱」の違いによって出でくる有害物質の種類や量が違ってくるのです。

ものによっては紙巻タバコと比べて有害物質が少ないものもありますが、ほとんど変わらない物質や、逆に加熱式タバコの方が多いとされる有害物質もあります。

こうした有害物質がさまざまな健康被害に繋がることはすでに皆さんもご存知だと思います。ご自身の健康被害や周囲の受動喫煙を減らしたいと考えて、多くの方が紙巻タバコから加熱式タバコへとスイッチされています。

その気持ちは尊重したいのですが、実は皆さんが考えるより加熱式タバコには大きな健康リスクがあると考えられるのです。

加熱式タバコには紙巻タバコと同様の循環器疾患になるリスクがあることがカルフォルニア大学サンフランシスコ校の研究グループによって報告されるなど、加熱式タバコの有害性に関する研究が報告されています。

また、紙巻タバコからスイッチしたところで、ニコチン依存は維持されます。それどころか、現在加熱式タバコは紙巻タバコに比べ吸いやすい環境にあることから、紙巻タバコ以上にニコチンを摂取しやすくなり、より強固なニコチン依存症になってしまう恐れもあります。

こうした研究結果をうけて、WHO(世界保健機関)や日本呼吸器学会をはじめ多くの医療団体から新型タバコに対して、「喫煙者本人の健康に悪影響がもたらされる可能性があると同時に受動吸引による健康被害が生じる可能性がある」という声明を出し警鐘を鳴らしています。

ただ、新型タバコは発売されてから日が浅いため、発がんリスクなどの長期的な健康評価を判断できる十分なデータが揃ってないのが事実です。新型タバコの本当のリスクが明らかになるまでには少なくとも今後10年以上の研究期間が必要になるでしょう。