刺身は魚によっておろし方が違います。

平作り、そぎ作り、細作り、引き作り、采の目作り、さざなみ作りなど。フグやカレイ、ヒラメは歯ごたえがあり、味が淡泊なため、盛り付けた皿の模様が透けて見えるほどに薄い平作り、そぎ作りにします。

なかでもフグはもっとも歯ごたえがあります。

そぎ作りにすることで、咀嚼のストロークごとに歯と歯(いずれも大臼歯)が接触し、筋線維とともにうま味(イノシン酸)を多く含む結合組織を噛み潰すことができます。

そこから抽出されたうま味成分(イノシン酸)が唾液に溶け出し、フグのうまさを知ります。鮪は肉質が軟らかいので、それより厚目の平作り、引き作りにおろします。

とろは5mm、中とろ・赤身は7mm程度、鰹はそれより厚くが目安です。

とろは脂も多く、歯ごたえがあり、味も濃いので薄く切り、赤身はうま味が淡泊で歯ごたえが小さいので少々厚くおろします。

おいしく食べさせるために、調理法には調理人の知恵があります。

刺身は刺身包丁の重みで引くか、そぎながらおろしていきます。

こうして筋線維をシャープに切断し、線維間の結合組織に含まれるうま味成分をまな板にこぼさないようにします。

刺身は角が立っていなければいけないというのは、あつらえの美しさを大事にしていることもありますが、切れない包丁では筋線維を押し込んでしまい、線維間の軟らかい結合組織を押し潰し、結局はまな板にうま味成分をこぼしてしまうからです。

ここにも調理人の心配りがみられます。

切れない包丁の役割は口の中、大臼歯がやることです。

日本人にはやっぱりしっかりした大臼歯の噛み合わせが必要です。

大臼歯が要らないという西欧とは、もともとの食文化に大きな違いがあるのです。