予防歯科の目的は、100%磨きのブラッシング指導でも歯石フリーの完璧なプロフェッショナルケアでもない。

バイオフィルムの病原性が高くならないようにオーダーメイドで管理し、同時に歯と歯周組織を鍛え、歯・歯周組織とバイオフィルムとの均衡を維持することである。

昔プラーク、今バイオフィルム

現在、プラークはバイオフィルムと呼ばれることば多い。

まあ、名前がどうかということは些細なことだ。もっともっと大事なことは、バイオフィルには2種類あるということ。

歯肉縁上バイオフィルムと歯肉縁下バイオフィルム、この2つはかなり違います。

予防歯科実践のためにはこの理解が絶対に必要である。

歯肉縁は国境

う蝕と歯周病の感染源であるバイオフィルムは、歯肉縁上と歯肉縁下では異なる細菌世界、細菌同士の行き来は無いと心得てください。

①歯肉縁上の細菌世界:

好気性菌(酸素が好き)が住んでいる。ミュータンスレンサ球菌もここの住人だ。

彼等は発酵性糖質(ショ糖、ブドウ糖、果糖、調理デンプンなど)を食し、酸を産生する。

バイオフィルムのpHは弱酸性。

②歯肉縁下の細菌世界:

嫌気性菌(酸素は嫌い)が住む。

彼等は歯周組織由来のタンパク質を主食とする(肉食系!)。

歯周ポケット内のpHは7.5~9.0でアルカリ性。

③細菌世界の国境:

縁上バイオフィルム細菌は、う蝕は起こすが歯周炎は起こさない(歯肉炎は起こす)。

縁下バイオフィルム細菌は、酸を産生しないのでう蝕は起こさない。

酸素と酸性を好む縁上細菌は、歯肉縁下(酸素が乏しくアルカリ性)に侵入しないし、縁下細菌も縁上には移行しない。歯肉縁は国境なのだ。

むし歯菌と歯周病菌

20世紀には、代表的なむし歯菌はミュータンスレンサ球菌、歯周病菌はPorphyromonas gingivalisだった。

我々はこの代表的な病原菌たちと戦えと教えられてきた。

ところが、21世紀になって話が変わった。この2つの菌種だけじゃなく、他の菌達も関係していると。

バイオフィルム全体の病原菌の変化を見ることが大事と考えられるようになった。

Microbial shift「21世紀のキーワード。覚えよう!」

バイオフィルムの病原性が高くなるのは、新たな細菌腫の参入によるものではない。

常在菌のMicrobial shiftによる。Microbial shiftとは、バイオフィルムを取り巻く、栄養、温度、pH、嫌気度などの環境変化によって、細菌たちが活気づき病原性を高める現象のことである。

細菌たちが「定常」から「悪玉」にシフトし高病原化するのである。

こうなるとバイオフィルムと菌・歯周組織の間の均衝が崩れ、う蝕や歯周病が発症する。Microbial shiftは人体の他の細菌叢でも起こる。

腸内細菌叢のMicrobial shiftは、深刻な病気の発症や進行に繋がることが知られている。便秘、下痢はMicrobial shiftの兆候だ。