歯磨きを嫌がる子供には、主に3つの原因があると考えられます。

(1)口腔への感覚入力の不足

(2)痛い、怖い、不快な思いをした

(3)面倒くさい・歯磨きの重要性を知らない

(1)(2)は低年齢児に対する原因で(3)は主に学童期以上が対象となります。

(1)口腔への感覚入力の不足

感覚は、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、前庭感覚(平衡感覚)のようにそれぞれの感覚に対応する決まった感覚器を有する特殊感覚と、触覚、圧覚、痛覚、温覚、冷覚などに代表される一般的感覚に分けられます。

口腔機能を形成していく上でどの感覚も大切ですが、特に感覚情報を集約し、口腔機能のメカニズムを主に支えているのがこのうちの触覚、圧覚です。

特に触覚は皮膚や粘膜の上を通過する時、その表面を滑る摩擦力を圧覚として認識していることがわかってきました。

こうした感覚がうまく育成されていないと皮膚や粘膜が適正な圧を調整できず、すべて痛みちして感じてしまっている可能性があるのです。

障がい者や口腔に機能不全のある子どもは、体や口腔内を触ったときに異常に嫌がる傾向があると言われますが、そのことが理由のひとつとも考えられます。

特に体の中心にある口腔は、最後まで敏感な場所とされています。その敏感性がいつまでも過剰に残ったり、逆に鈍感だっだりすることは、口腔機能の発達の妨げとなります。

具体的には、歯磨きを異常に嫌がる、偏食がひどい、食に興味がない、嘔吐反射が強い、などの形となって表れてきます。

具体的な対策としては、歯が生える前から脱感作の意味でたくさん触れてあげることです。

少し圧をかけてあげるようにしてゆっくりと。

まずは手足。そして体幹。だんだんと顔に近くしていきます。

親子のスキンシップのひとつとして楽しみながらリラックスして行うことが大切です。

お口周りや中を触ったり、離乳食が始まれば、食べ終わったところで柔らかい湿ったガーゼなどでお口の周りを拭ったり、歯ぐきをゆっくりと指でマッサージするようにして触ります。

日常生活において、食べる動作以外で口腔内に圧刺激や触刺激を与えるものは、先ほどお話したマッサージ以外には歯磨きだけと言っても過言ではないでしょう。

もちろん、赤ちゃんはそうした刺激として、指やおもちゃなどをなめたり口に入れたりして感覚入力を行いますが、それも成長するにつれ無くなってきます。

そういった意味でも、歯磨きというのは口腔機能を育成することに大事な意味を持っていると言えます。

歯磨き好きな子に育てる、歯磨きが気持ちいいと感じることはう蝕予防以外に大きな意味合いを持つということがわかると思います。

このことを歯科医療従事者がもっと知って、歯の生えない乳児のうちから来院を促すことが今後のポイントとなってきます。

逆にこのような大切なことを歯科がやらずに誰がやるのでしょう。

歯磨き動作はそういった意味でも重要であり、その指導は歯科が最も得意とするところです。自分で歯ブラシを持ってすべての歯面に当てていく。この動作は脳や運動機能の発達に大きく作用するものです。

(2)痛い、怖い、不快な思いをした

次にあげる5つのポイントに注意が必要です。

①歯ブラシの大きさは子供の口に合っているものかどうか?

歯ブラシのヘッド部の大きさは下顎乳切歯3本分が基本となります。

商品に記載されている「学童用」や「乳歯用」にあまり惑わされず、その子の口に合った大きさのものを与えるよう指導することが大切です。

②毛先が広がっていないか?

歯ブラシを後ろから見た時、広がった毛先が見える状態であれば歯ブラシの交換期です。

毛先の広がった歯ブラシの歯垢除去率は2/3に低下します。

仕上げ磨き用のものは新しいものを使うように指導します。

自分磨き用は、低年齢の場合、歯磨き自体に興味を持たせることが大切なので、好きな色、キャラクターのものを選んで、多少毛先が広がっていてもいいと思います。

③余分な場所に毛先が当たっていないか?

磨いている場所を直視し、確認しながら刷掃することが大切です。

柔らかい上唇小帯や頬小帯、歯肉などの軟組織に当たっていないか確認します。

歯磨圧も大切です。

最適歯磨圧とは、歯や周囲組織を傷つけたり痛みを感じることなく最大限に歯垢除去効果が得られる歯磨圧のことを言います。

はかりなどで日頃の自分の歯磨圧を体験してもらうことも大切です。

④刷掃者の爪は伸びていないか?

子どもの口唇、頬粘膜を排除するときに、長い爪は粘膜を傷つける可能性があります。また、マニキュアのにおいなども、子どもが嫌がる原因となります。

⑤逆さから見た顔が怖くなってないか?

あまりにも一生懸命になりすぎて、怖い顔になっていませんか?

「下から覗く顔を時々自分でも鏡でチェックしてみましょう」というアドバイスをします。

(3)面倒くさい・歯磨きの重要性を知らない

学童期に入ると、自分でもある程度磨ける年齢になります。

その時に歯磨きの習慣が定着してないと、忙しいことを理由に面倒くさがって歯磨きが雑になることが多く見られます。

この時期には、歯を健康に守ることの大切さを話してあげることが大切です。

それは、歯だけではなく自分の体を大切にするという気持ちを育てることになるからです。

学童期は前歯部の歯肉炎、第1、第2大臼歯のう蝕発生が最も予防しなければならない項目です。