フレイル対策
「加齢による筋肉量の減少」を意味するサルコペニア、「虚弱」を意味するフレイルは、近年、老年医学領域だけでなく臨床のさまざまな科で注目されるキーワードになっています。
しかし、比較的新しい概念なため、重要性は確認されても、定義や介入方法は十分に周知されているとは言えません。
老年内科は、高齢者の健康増進から、多病で複雑な高齢患者のマネジメント、さらには人生の最終段階の医療まで、幅広い領域に対する診療活動を行っています。
老年内科で療養支援を続ける、先生の言葉からフレイルへの正しい介入(治療や予防)を考えます。
老年医学の専門家は、次に挙げる5つの特徴のうち3つ以上そろうと「フレイル」と評価します。
1つか2つに該当する場合は「プレフレイル(フレイルの前段階)」、いずれも該当しない場合は「ロバスト(健常者、頑強者)」と捉えます。
これらの5つの特徴は、互いに関連し合って、「フレイルサイクル」という悪循環を形成し、高齢者の健康寿命を奪っていきます。
そのような悪循環を回避するためにも、早期からこれらの特徴の注意をしておくことが必要です。
1|歩行速度の低下
フレイル高齢者の代表的な特徴は、歩く速さが低下していることです。
歩行速度の低下は、加齢に伴う運動器の障害や心肺機能が低下する状態、脳や神経の病気、貧血や消耗性疾患などに起因していることがあります。
歩行速度の低下は余命や認知機能障害の発生とも関連するという報告があり、私たちの老いの状態を総合的に反映していると言ってもよいかもしれません。
2|疲れやすい
体が疲れやすくなったり、何かを行うことが億劫になったりすることも、フレイル高齢者の特徴です。
この徴候は、比較的早期の現れると考えられています。
心の病気や消耗性疾患、あるいは心肺機能の低下を招く状態などが原因となることがありますが、服用している薬が原因となることもあります。
併存疾患が複数あり、多剤服用がやむを得ないことはありますが、複数の病院から類似薬品を処方されていたり、効果が真逆の薬品が処方されていたりするなど、不適切処方になっていることもあります。
多剤服用は不適切処方を招きやすく、薬剤に起因した倦怠感などの健康障害を及ぼすケースもあるため、6種類以上の薬を処方している場合は、薬剤有害事象に起因した症状ではないかを留意する必要があります。
3|活動性の低下
意欲の低下や抑うつが原因になったり、移動能力の低下に関連する病気や状態が原因になったりします。
社会的な環境の変化(例:新型コロナウイルスの蔓延予防のため外出や社会的交流を制限せざる得ない環境、引っ越しや退職など)を契機に活動性が低下することもあります。
人との付き合いを面倒に感じ、閉じこもり傾向になっている場合は要注意です。
4|筋力の低下
筋力の低下は、加齢に伴う生物学的変化が基盤にありますが、活動性の乏しい生活習慣、病気や薬の影響、栄養の偏りや不足が、その衰えの進行を修飾します。
近年、サルコペニアという用語が使われますが、これは、筋力や筋力量の低下を特徴とする状態を表し、フレイルの中核的な病態と位置付けられています。
5|体重減少
意図しない体重減少は、消耗性疾患や悪性腫瘍などが潜存していることもあるため、高齢者にとって注意するべきサインです。
半年で5%を超える体重減少がある場合には、心や体に隠れた病気がないか調べる必要があります。
受診時に体重を測定することは、どの診療科でも行えるので、記録を毎回残し、その変化に留意することが重要です。
また、薬局などでも体重を測定・記録し、高齢者が健康を自己管理できるように啓発して頂くと良いと思います。
これら5つの徴候を基にフレイルを評価する方法は、世界的に最も広く用いられており、Cardiovacular Health Stuby(CHS)というコホート調査で妥当性が確認されました。
わが国では、日本人高齢者に適応できる内容に修正した「日本版CHS(J-CHS)基準」が提案されています。
また、「筋力の低下」の代わりに、「記憶力の低下」を加えた自記式質問票である「簡易フレイルインデックス」が考案され、地域在住高齢者における健康障害の発生予測について妥当性が確認されています。
自記式質問票であれば、外来診療の問診や待合、薬局などでもチェックができるので、フレイル評価の入り口として利用することができます。
高齢者を歴年齢だけでなく、フレイルという生物学的年齢に関わる指標で評価することは、高齢者の多様性を踏まえた過不足のない診療の実現につながります。
フレイル評価を日常診療に取り入れることが、健康長寿社会の実現に向けた、新しい高齢者医療の診療スタイルになりつつあります。