う蝕にならないために大切なこと

(1)乳歯にう蝕があると、永久歯にも悪影響を及ぼす

「どうせ抜けてしまう乳歯だから、う蝕になっても痛くなければ放っておいても問題ない」。

いまだにそう思っている保護者が意外と多いことに驚きます。

保育園、幼稚園の先生の中にさえ、う蝕はほかの疾患と違って大したものではないと思っている人がいます。

そのため、乳歯のう蝕が口腔内のう蝕原因菌の数を増やし、永久歯のう蝕罹患率を高めてしまうことをしっかりと伝える必要があります。

幼若永久歯はう蝕抵抗性が低いので、口腔内の状態が悪ければ、簡単にう蝕を誘発してしまいます。

う蝕に罹患した幼若永久歯は進行が早く、歯髄まで達するのにそう時間はかかりません。人生100年と言われる時代を生きていくこれからの子供が、6歳そこそこで永久歯を無髄歯にしてしまう。

無髄歯は有髄歯と比較して破折する確率が高くなります。

それは将来健全な歯を長期に保存することを困難にします。

(2)どうしたらう蝕になりにくくなるのか?

①感染の機会を減らす②砂糖の量を減らす③生活リズムを整える④歯質を強化する

感染の機会を減らす

口腔内にう蝕原因菌であるミュータンス連鎖球菌が検出されるのは1歳7カ月~2歳7カ月の間で、“感染の窓”と呼ばれる時期です。

ラットを使った藤原の研究報告によると、ミュータンス連鎖球菌の定着時期をヒトに換算して約10カ月遅らせると、う蝕の発生率を半分に減少させることができるとしています。

菌の定着に関する因子として、①菌量、②頻度、③スクロースの摂取量が挙げられます。

家族全員の口腔衛生意識の向上と行動が大きく影響します。

大人への口腔衛生指導が重要です。子供は親のやることを真似ます。

親が歯磨きしないなら子供は磨きません。

②砂糖の量を減らす

う蝕の発生には最初はスクロースの存在が不可欠です。

ミュータンス連鎖球菌とスクロースで作られたバイオフィルムは、歯面に強力に付着するため、機械的な清掃力を借りなければ除去できません。

洗口だけではほとんど除去されません。

やがてそれはミュータンス菌以外の口腔細菌も巻き込み、ますます有機酸を産生していくこととなります。

そのため、砂糖の摂取量はう蝕と強い関係にあると言えます。

1970年に竹内光春先生が書かれた“砂糖の消費量とう蝕罹患率の年次変化について”のグラフは、このことを如実に示したものとして、50年経った今でも引用されています。第2次世界大戦中は砂糖の消費が極端に減少しました。

う蝕はそれを反映するように減少しています。

そして高度経済成長とともに砂糖の消費量は増加し、その後う蝕も増加します。

③生活リズムを整える

生活リズムを整えることで、子どもたちが決まった時間にしっかりと食事をとり、よく遊び、良質の睡眠を獲得できるようになります。

それはう蝕予防においても重要なことです。

大正時代からある婦人之友社主催の乳幼児グループでは、そのころから“早寝、早起き、朝ご飯”を全国に提唱し続けてきました。

ある日の生活リズムの1例を示します。

18年前から嘱託医をさせていただいておりますが、この子供たちはほとんどう蝕がなく、何より驚いたのは子供たちの精神が安定していることでした。

長崎市歯科医師会で報告されたものですが、幼児期の生活リズムが年齢が進むほどう蝕罹患率の差となって表れていることがわかります。

押さえつけて歯磨きをしても生活リズムが乱れていてはう蝕は発生します。

歯磨きは大切ですが、歯垢が100%除去できるわけではないからです。

粘着性の強い歯垢をいかに作らないかが大切です。しれにはショ糖の摂取量と生活リズム(時間)が大きく関与します。

④歯質を強化する

フッ化物応用は歯質を強化するのに有効です。

家庭でできるフッ化洗口法は、持続できればかなり有効です。

歯科医院でしかできないフッ化物歯面塗布法との使い分けをしてう蝕予防の相乗効果を期待することができます。

 

小児のう蝕罹患率は近年減少していますが、大人の忙しく余裕のない毎日が子供たちの口腔健康に様々な悪影響を及ぼしていくことを再認識してもらう必要があります。

朝食をとってきたか?と聞くとほとんどの児童が挙手します。

しかし、内容は菓子パン1個とか、ジュース1杯とお菓子とかをまじめな顔で言います。

朝ごはんはそのようなものだという意識が子供に定着している証拠です。

このような、生活リズムの乱れやあの手この手の甘いお菓子や飲み物があふれている現状を見るにつけ、今後もこのう蝕の減少状態が続いていくのかいささか心配です。

振り返ってみれば短い子育ての時期を、辛い、大変とばかり言わないで、楽しんで過ごせる時間となるように我々歯科医療従事者が大人たちに関わっていくことは大変重要なことだと思います。

歯が生えてからの歯医者さん通いではなく、おなかにいる時から母親への啓発指導は始まります。

授乳のこと、離乳食のこと、全身の発達、特に感覚統合の観点から見た歯磨き指導、鼻呼吸の指導などなど、我々が早期に介入することはたくさんあります。

また、厚生労働省の歯科疾患実態調査は、あくまでも集団検診の結果を反映したものです。最近増加している隣接面う蝕は視診のみでは発見できていないと考えられます。

定期検診の重要性とレントゲン検査による隣接面う蝕のチェックも大切なことを指導しましょう。

子供は、粘土細工のようです。

どうとでも形を変えられます。

間違った方向に行ってしまうのも早い代わりに、早期に正しい介入をすることで軌道修正できるのも小児の特徴です。

やまもと歯科クリニックは、患者様を正しい方向に導ける歯科医療を継続できるよう日々研を積んでいます。