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こんにちは。
皆さんは「献体(けんたい)」という言葉を聞いたとき、どのようなイメージを思い浮かべますか?

「医学部の学生さんが、解剖学の授業で体の構造を学ぶためのもの」

そう認識されている方が多いのではないでしょうか。もちろん、それは今でも献体の最も大切な目的の一つです。しかし近年、献体は学生の教育にとどまらず、「現役の医師・歯科医師が手術の腕を磨き、患者さんの安全を守るため」にも不可欠なものへと進化しています。

今回は、日本の医療の未来を大きく変えつつある「サージカルトレーニング(CST)」についてご紹介します。

 

 

1. サージカルトレーニング(CST)とは?

サージカルトレーニング(CST:Cadaver Surgical Training)とは、ご遺体(Cadaver)を対象に、医師や歯科医師が実際の手術手技を学ぶ研修のことです。

これまでの医療界では、新しい手術を学ぶ際、ベテラン医師の手術を見学したり、模型や動物、あるいはコンピューターのシミュレーターを使ったりして練習を重ねてきました。
しかし、人間の体は一人ひとり異なり、組織の繊細な柔らかさや、複雑な血管の走り方は、模型や動物ではどうしても再現できません。

CSTは、本物の人間の体を通じてしか得られない「極めてリアルな感覚」を、手術の前に経験できる唯一の場なのです。

 

 

2. なぜ、現役の医師にこのトレーニングが必要なのか?

学生時代の「解剖学実習」が体の構造を正しく知るための学びであるのに対し、CSTは患者さんを安全に治療するための実践的な学びです。

近年、医療技術は目覚ましく進歩しています。


内視鏡を使った体への負担が少ない手術や、最新の医療ロボットを用いた手術など、高度な技術が次々と登場しています。

 

  • ぶっつけ本番をなくす: 初めて行う高度な手術を、実際の患者さんの前で「ぶっつけ本番」で行うわけにはいきません。事前にCSTで緻密なシミュレーションを行うことで、手術の成功率は飛躍的に高まります。

  • 万が一のトラブルへの対応力を養う: 手術中に予期せぬ大出血が起きたとき、どう対処すべきか。CSTでは、そうした緊迫した局面のリカバリー(挽回)の手順も、安全な環境で繰り返し体得することができます。

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つまり、CSTを行うことは、結果として「目の前の患者さんの命を守ること」に直結しているのです。

 

 

3. 「海外留学」から「日本国内」での開催へ

実は少し前まで、このCSTは日本国内では法的な解釈やガイドラインの整備が進んでおらず、自由に行うことが難しい状況でした。


そのため、日本の医師たちはわざわざ海外(アメリカやタイなど)の手術トレーニング施設へ赴き、現地の献体を使って技術を学ぶのが主流だったのです。

 

 

しかし、移動の負担や費用の面からも、国内での実施を望む声が強く上がっていました。

これを受けて2012年、日本解剖学会と日本外科学会が共同で「遺体を用いた手術手技研修(CST)のガイドライン」を策定。
これを機に、日本の大学医学部や歯学部でも、法と倫理を遵守した形でCSTが実施できるようになりました。

 

 

現在では、多くの医療機関や学会が連携し、国内で質の高い研修が行われています。

 

 

4. 尊いご意志への、深い感謝の念を忘れない

CSTをはじめとする献体による研修は、すべて「自分の体を医学の発展と、未来の患者さんのために役立ててほしい」と願う、献体登録者ご本人とご家族の気高いご意志(無条件・無報酬の善意)によって成り立っています。

 

トレーニング室に集まる医師たちは、実習の前後には必ず黙祷を捧げ、目の前のご遺体を「最初の患者さん」として、最大級の敬意と尊厳を持って接します。

 

献体といえば「未来の医師を育てるもの」と思われがちですが、いまや「今日の、そして明日の患者さんを救う現役の医師を育てるもの」へと、その意義はさらに深く、大きくなっています。

 

私たちが受けている安全な医療の裏側には、こうした尊いご意志と、それに応えようと技術を磨き続ける医師たちの熱意があることを、一人でも多くの方に知っていただければ幸いです。