家に帰っても、

といっても自宅ではないのだけれど

ジェジュンは余計に居場所を失っていた。

 

ご両親は変わらず接してくれるけれど

ユノは自分であんなこと言ったくせに

やっぱりどこかジェジュンにぎこちなく接していた。

 

 

「ジェジュンくん」

 

「はい」

 

 

ユノもお父様もまだ帰宅しておらず

お母様と2人で夕飯を食べていると

ふいに呼ばれて、

 

 

「あのね、今度の日曜日、お父さんの誕生日でね。

もし良ければみんなで食事を取りたいと思っているんだけど

その日空いてるかしら?」

 

 

と尋ねられた。

 

 

「日曜日なら大丈夫ですよ」

 

「そう、良かったわ。

それでジェジュンくんからユノを誘っておいてほしいんだけど」

 

「俺からですか?」

 

「だって私から言っても聞かなそうだし」

 

「何故です?」

 

「あの子はそういうの恥ずかしがるから」

 

 

お母様はそう笑っていたけれど

ジェジュンからしてみれば、それは照れ隠しに過ぎなくて

言葉にはしないけれど、ユノが家族を大切にしているのは伝わっていた。

そっけないけれど、ユノはいつだって

ありがとう、や感謝の気持ちをボソリと言うからだ。

 

 

「でも……」

 

「ダメかしら?」

 

「ダメってことはないんですけど、

やっぱりお母様から言った方が……」

 

「そういえば」

 

「え?」

 

「お母様って呼ぶのは堅苦しくない?」

 

 

そんな風に急に話題を変えるお母様は

ちょっと天然で可愛いな、とジェジュンは可笑しくなる。

 

 

「おばさん、でいいわよ」

 

「でも…」

 

「もしくは、お母さん?」

 

「そ、それは」

 

「ふふ、じゃあ、お母さんって呼んで?そっちの方が私も嬉しいわ」

 

「お、お母さん…」

 

「はい、そう呼ぶのもユノを誘うのも決まりね」

 

 

ジェジュンが困惑しているうちに

お母様の中では色々と決定してしまい、

してやられた、と笑うと

お母様はジェジュンくんはやっぱり可愛いわね、なんて笑っていた。

 

 

 

その夜、ユノが帰宅してきたところを見計らって

ジェジュンは部屋のドアをノックした。

 

 

「はい」

 

「俺だけど…」

 

 

返事は無かったけれど、ドアを開く。

 

 

「あの…」

 

「…何?」

 

「あのね、今度の日曜日お父さんの誕生日だから

お母さんがみんなで食事をしないかって…」

 

「お父さん?」

 

「へ?」

 

「お母さん?」

 

「あ…えっと、そう呼んでって言われて…」

 

「……そっか」

 

「うん…それでユノは空いてるかなって…」

 

 

スーツを脱ぎながらユノは少し考えて

 

 

「大丈夫だよ、分かった」

 

 

そうぶっきらぼうに答えた。

 

 

「ありがとう」

 

 

ジェジュンもそう答えたけれど

何故だかそのまま立ち去ることが出来ずに黙ってしまう。

 

 

「どうかしたか?まだ何か…」

 

「ユノ」

 

「ん?」

 

「えっと…」

 

 

自分が話題もないのに話そうとしているのに気がついて

ジェジュンは困ってしまった。

何か普通に話さなければ、と最近ずっと思っていて

だけどこのタイミングじゃなかったと後悔しても遅く、

ユノが言葉の続きを待っていることに、さらに困ってしまう。

 

 

「ジェジュン、論文は?」

 

「え?」

 

「その…順調に進んでるのかなって」

 

「あ、ああ、うん。順調だよ」

 

「それは良かった…」

 

「うん」

 

 

このぎこちなさはどうしようもない、

だけどいつまで続くのだろう、と

ドアノブを掴んだ手に何故か力が籠る。

 

普通にしていたいのに、その普通が出来ない。

 

自分は何にそんなに戸惑っているのか…

 

 

「じゃあ…ごめんね、邪魔して…」

 

 

もうそれ以上、会話を続ける自信がなく

ジェジュンは俯きながらドアを閉め、

そのままその場で小さく溜息をつく。

 

こんなんじゃユノに嫌われてしまう…

 

そんなことを思った自分もおかしいんだろうか。

 

 

 

そして、数日経って日曜日がやってきた。

言われた通りにユノもジェジュンも夕飯の時間にはテーブルについて

お母さんもお父さんもニコニコと嬉しそうだ。

 

 

「じゃあお父さん、お誕生日おめでとう」

 

「ありがとう」

 

 

お母さんが時間をかけて作った料理がテーブルを飾り、

他愛のない話をしながら食事をした。

その途中でお父さんからお母さんに花束が渡されるというサプライズがあって

 

 

「いつもありがとう、これからも宜しく」

 

 

と目の前で照れてしまうようなことが起こったり

ジェジュンからもユノからもそれぞれプレゼントが渡されて

久しぶりにとても穏やかな時間が流れていった気がした。

 

暫くして、

 

 

「じゃあ、私たちは寝るから」

 

 

そう言ってご両親は幸せな気持ちのまま眠りにつく。

ユノもそのまま自室へ向かおうとしたところで

 

 

「ユノ」

 

 

と声をかける。

 

 

「何?」

 

「あの…ちょっと2人で飲まない?」

 

「え?」

 

「せっかくだし…せっかくってこともないのかな…えっと…」

 

「いいよ」

 

「え、いいの?!」

 

「嫌なのかよ」

 

「全然!!」

 

 

ジェジュンが嬉しくなって笑うと

ユノはその姿を見て、優しく笑った。

その表情を見て余計にジェジュンは嬉しくなる。

 

テーブルを挟んで2人、何を話そうかと考える合間に

ワインがどんどん進んでいき、

いつの間にかほど良く酔いが回っていった。

 

 

「ねえ、ユノ」

 

「ん」

 

「ユノの誕生日はいつなの?」

 

「俺?俺は、2月6日」

 

「え?!」

 

「何だよ」

 

「…俺…2月4日」

 

「え、近いな…」

 

 

ジェジュンはそんな些細なこと、

だけれど、ちょっとした奇跡のようにその偶然が嬉しくて

何故だかドキドキしていた。

ユノは酒が入ったからかそれまでのぎこちなさもなく

誕生日の近さに、凄いなと純粋に驚いている。

 

 

「じゃあ、俺の方がお兄さんなんだね?」

 

「2日だけじゃんか」

 

「それでも年上でしょ?ヒョンって呼んでいいよ?」

 

「嫌だよ」

 

「何で?呼んでいいのに」

 

「俺の方が年上っぽいし」

 

「いや、実際同じ歳だからね?」

 

「お前が言い出したんだろ?」

 

「頑固だなあ、もう」

 

「どっちが」

 

 

頭がふわふわとしていく中、

ジェジュンはこの会話がとても嬉しかった。

あの微妙な距離は気のせいで

これからきっともっと仲良くなれるだろうという予感が

より一層ジェジュンを笑顔にする。

 

 

「何ニヤニヤしてんだよ」

 

「え?してる?」

 

「してる」

 

「だってさ、嬉しいの。こうやって話せるのが」

 

 

アルコールは人を大胆にさせるものだ。

 

 

「嬉しいって…」

 

「だって、あの日から違和感が拭えなかったじゃん。

そりゃあ手を繋いで寝たなんて、意識するに決まってるけど」

 

「……」

 

「やっぱり寂しかったから、普通に話せないのは」

 

「ジェジュン…」

 

「何言ってんだろうね、俺。おかしいね」

 

 

ユノは目の前でクスクスと笑うジェジュンの

その上気した頬と仕草に目を奪われてしまい、

結局お互い同じようなこと考えていたことに思考が止まってしまう。

 

 

「ユノ?」

 

「ジェジュンさ」

 

「何?」

 

「お前って可愛いな」

 

 

アルコールは人を大胆にする、想像以上に。

 

 

「ユ、ユノ…?」

 

 

ジェジュンがぽかんとしているうちに

ユノの手が伸びてきて、

あの日と、あの時と同じように頭を撫でられた。

 

その手があまりに優しくてジェジュンは言葉が出ない。

 

ユノの手は何の躊躇もなく髪を梳いて

それから頬へと下りる。

 

自分が何か言おうとしているのか言えないのか

ユノにもジェジュンにも分からなかったが、

ただ、2人の間に妙な空気が流れていることは分かった。

 

 

触れられた手が熱い。

それに少し震えている気がする。

 

 

「ダメだ…」

 

 

ユノがボソリとそう呟いたが

その手は離されることなく、そのまま唇を撫でられる。

 

 

「ダメだよ…」

 

 

同じように吐いたジェジュンの言葉を

本人もユノも分かっているのに

互いから目線を外せずに、またジェジュンも同じように手を伸ばした。

 

 

何故こんな気持ちになるのか。

 

そんな予兆はあったのか。

 

 

あれは酔っ払っていたから

あれは眠たかったから

 

そんなことはもしかすると言い訳だったのか。

 

 

急速に高鳴る気持ちに

2人は戸惑いながらも封じることが出来ない。

 

 

「ジェジュン」

 

「な、何…」

 

「嫌だったら言って?」

 

「何を…?」

 

 

ガタッと椅子が鳴って、

ユノの顔が一気にジェジュンに近づくと

数センチの距離で

 

 

「今からすること…嫌だったら言って…」

 

 

何処か苦しそうな声でユノが囁く。

 

 

「何を…」

 

 

そうジェジュンが

何をされるか分かっているのに聞いた言葉尻を飲むように

ユノの唇がそっとジェジュンの唇に触れた。

 

深いキスでもなく、ただ重なるだけのキスが

それでも体に染み込むように続いて

相手の速くなる鼓動が唇を通じて伝わってくるように感じる。

 

 

何をしているのか、と問われれば

 

分からない、と2人とも答えていただろう。

 

 

それくらい、相手に溺れかけていたのかもしれない、いつの間にか。