しんと静まった部屋で、
キーボードを叩く音や
衣服が微かに擦れる音だけが聞こえていた。
ジェジュンは、集中力をふと切らし我に返る。
時計に目をやれば、午後6時を回っていて
いつの間にそんな時間が経ったのかと
まだ真剣に机に向かう周囲に気づかれないように
小さく溜め息をついた。
とはいえ、そんな時間すら楽しいと思う。
いや、楽しい、という言葉はどこか間違っているのかもしれない。
この合同研究に参加してみないか、と誘われた時
期待されていることへの喜びよりも遥かに
途方もない道のりがまた伸びた、と感じたのは
きっと勘違いじゃなかった。
日々、答えがあるのかないのか
よく分からない中で
ゴールでもなく何かを追い求めていく作業は
面白さの中に怖さを含んでいた。
研究者は皆、それを承知の上で立ち向かうのに
ジェジュンは
そこから抜け出せなくなっていく自分を想像する。
行き着く場所はあるんだろうか。
新しい発見があれば喜び、
それが簡単に崩れては落ち込み、
しかし落ち込む暇もなく、また挑戦する。
そうこうしているうちに、きっと‥
思考すら抜け出せなくなりそうになり
ジェジュンはそこで頭を振った。今日はもうダメだ。
「すみません、今日はもう上がります」
そう一言告げ、
たいして中身の入っていない鞄を手に取り
研究室を後にする。
帰り道、そういえば今日はほとんど何も口にしていない、と
空っぽの腹に手をやり、また溜め息をついた。
ユノの家に居候するようになって、2週間。
お世話になっているのに
ほとんど何かを手伝えることも出来ていなくて
それなのに毎晩用意してくれる食事に
申し訳なく思いつつも、
集中しすぎて凝り固まった体は思うように動かなかった。
少しだけ慣れた家の玄関を開けると
丁度ユノが出かけるところらしい。
「あ‥おかえり」
「ただいま帰りました。出かけるの?」
「ああ、今から友達と飲みに」
「そうか、今日は休日か」
ジェジュンがぼんやりとそう言うと
ユノが眉をひそめて笑い、
「ちょっとは休めよ」
と自然と手を伸ばす。
が、伸ばしかけた手が
ジェジュンの前髪に触れる直前で止まり、
行き場を無くしたまま
ラフに着こなされたデニムのポケットに入っていった。
自分より少し高い目線にあるユノの顔を見ると
さっきとは違う困った顔で笑う。
「ユノ」
「ん?」
「普通にしてくれていいのに」
「え?」
「気を使うのは居候の俺の方だし
ユノは普通にしててよ」
「‥普通にしてるよ」
「そう?」
「ああ」
たぶん、自分でも
そこまで言ってる意味を整理出来ないまま発言している。
だからジェジュンは、
「そっか」
と何てことのない言葉を吐いて、話に終止符を打つ。
「気をつけていってらっしゃい」
「夕飯食って、ちゃんと寝ろよ」
ユノはすれ違い様、
ジェジュンの肩を一つ叩いて出ていった。
人に触れるのはきっと彼の癖、なのだろう。
ジェジュンは困ったように笑うユノを思い出しながら
靴を脱いで、2階へと荷物を置きに上がった。
昔と変わらないユノがユノの中にいることを
どこか嬉しく思いながら。
キーボードを叩く音や
衣服が微かに擦れる音だけが聞こえていた。
ジェジュンは、集中力をふと切らし我に返る。
時計に目をやれば、午後6時を回っていて
いつの間にそんな時間が経ったのかと
まだ真剣に机に向かう周囲に気づかれないように
小さく溜め息をついた。
とはいえ、そんな時間すら楽しいと思う。
いや、楽しい、という言葉はどこか間違っているのかもしれない。
この合同研究に参加してみないか、と誘われた時
期待されていることへの喜びよりも遥かに
途方もない道のりがまた伸びた、と感じたのは
きっと勘違いじゃなかった。
日々、答えがあるのかないのか
よく分からない中で
ゴールでもなく何かを追い求めていく作業は
面白さの中に怖さを含んでいた。
研究者は皆、それを承知の上で立ち向かうのに
ジェジュンは
そこから抜け出せなくなっていく自分を想像する。
行き着く場所はあるんだろうか。
新しい発見があれば喜び、
それが簡単に崩れては落ち込み、
しかし落ち込む暇もなく、また挑戦する。
そうこうしているうちに、きっと‥
思考すら抜け出せなくなりそうになり
ジェジュンはそこで頭を振った。今日はもうダメだ。
「すみません、今日はもう上がります」
そう一言告げ、
たいして中身の入っていない鞄を手に取り
研究室を後にする。
帰り道、そういえば今日はほとんど何も口にしていない、と
空っぽの腹に手をやり、また溜め息をついた。
ユノの家に居候するようになって、2週間。
お世話になっているのに
ほとんど何かを手伝えることも出来ていなくて
それなのに毎晩用意してくれる食事に
申し訳なく思いつつも、
集中しすぎて凝り固まった体は思うように動かなかった。
少しだけ慣れた家の玄関を開けると
丁度ユノが出かけるところらしい。
「あ‥おかえり」
「ただいま帰りました。出かけるの?」
「ああ、今から友達と飲みに」
「そうか、今日は休日か」
ジェジュンがぼんやりとそう言うと
ユノが眉をひそめて笑い、
「ちょっとは休めよ」
と自然と手を伸ばす。
が、伸ばしかけた手が
ジェジュンの前髪に触れる直前で止まり、
行き場を無くしたまま
ラフに着こなされたデニムのポケットに入っていった。
自分より少し高い目線にあるユノの顔を見ると
さっきとは違う困った顔で笑う。
「ユノ」
「ん?」
「普通にしてくれていいのに」
「え?」
「気を使うのは居候の俺の方だし
ユノは普通にしててよ」
「‥普通にしてるよ」
「そう?」
「ああ」
たぶん、自分でも
そこまで言ってる意味を整理出来ないまま発言している。
だからジェジュンは、
「そっか」
と何てことのない言葉を吐いて、話に終止符を打つ。
「気をつけていってらっしゃい」
「夕飯食って、ちゃんと寝ろよ」
ユノはすれ違い様、
ジェジュンの肩を一つ叩いて出ていった。
人に触れるのはきっと彼の癖、なのだろう。
ジェジュンは困ったように笑うユノを思い出しながら
靴を脱いで、2階へと荷物を置きに上がった。
昔と変わらないユノがユノの中にいることを
どこか嬉しく思いながら。