チョン・ドゥファン大統領の名前が出たので”100選”はお休みして、昨年公開され歴代6位1300万人を集めた作品を…1979年パク(朴)大統領暗殺から二か月も経ずして起きたチョン・ドゥファン陸軍保安司令官による”1212(シビシビ)粛軍クーデター”を凄まじいリアリズムで描いて大傑作…「ソウルの春」

 

1979年10月26日深夜、陸軍本部地下司令部に夥しい数の将校が集められる。そこで発表されたのはパク・チョンヒ大統領の暗殺死だ。そしてその場でチョン・サンホ陸軍参謀総長が戒厳司令官に任命され、またパク大統領暗殺事件の捜査を命じられたのがチョン・ドゥグァン国軍保安司令官だ。チョン・サンホ参謀総長は、教育参謀部の優秀な次長イ・テシンを自宅に呼び、首都警護司令官の職を任せたいと伝えるが、政治に距離を置くイ・テシンは逡巡する。一方のチョン・ドゥグァン保安司令官は後の大統領ノ・テゴンを右腕とし軍内に強い組織力を持つ軍閥「ハナ会」を後ろ盾にあからさまに政権中心を牛耳る動きを始める。こうして、この二人の対立が、暗殺事件から僅か47日後の12月12日首都ソウルを血に染める軍部クーデターに向かってカウントダウンを始動させたのだ…

 

【()内はモデルとなった人物】国軍司令官で後の大統領チョン・ドゥグァン(チョン・ドゥファン)に、ドル箱ファン・ジョンミン、首都警備隊司令官イ・テシン(チャン・テワン)に、韓国映画界きっての二枚目チョン・ウソン、陸軍参謀総長チョン・サンホ(チョン・スンファ)に、引っ張りだこの名優イ・ソンミン、ドゥグァンの右腕第9師団長で後の大統領ノ・テゴン(ノ・テウ)に、本来は柔らかい演技派パク・ヘジュン、テシンと行動を共にする憲兵監キム・ジュンヨプ(キム・ジンギ)に、もはや主演級キム・ソンギュン、当時の大統領チェ・ハンギュ(チェ・ギュハ)に、『冬ソナ』から応援する名脇役チョン・ドンファン、優柔不断な国防大臣オ・グッサン(ノ・ジェヒョン)に、名優キム・ウィソン。特別出演では、陸軍特殊戦司令官チョン・ヘイン(チョン・ビョンジュ)に、今回は笑いを封印した渋いチョン・マンシク、若き陸軍特殊戦司令部参謀長オ・ジノ(キム・オラン)に、「ユ・ヨルの音楽アルバム」の二枚目チョン・ヘイン、陸軍参謀総長補佐官(二人の実在人物を併せたとされる)に、「犯罪都市3」で名悪役を演じた二枚目イ・ジュニョク。

 

まずは題材となった”1212(シビシビ)粛軍クーデター”についてですが、無学にも個人的には、パク(朴)大統領からチョン(全)大統領への権力移譲は平和裏になされたと思っていたので、”暗殺”から”光州事件”までの僅か半年の間に首都ソウルを血に染め戦車が行き交うクーデターがあったことに衝撃を受けたわけです。”暗殺”なら「南山の部長たち」、”光州事件”なら「光州5・18」を始めとして数々の名作が作られていますが、チョン・ドゥファンが先導したクーデターについて正面から取り上げた作品は記憶にないので尚更驚いた次第です。そして映画作りが凄い。「英語完全征服」「FLU」「アシュラ」コメディ、パニック、バイオレンスと何が得意か分からないキム・ソンス監督ですが、決して大規模なスペクタクルが多いわけではないものの、クーデター拠点、反クーデター陸軍本部、青瓦台などなどきちんと場所と地名をテロップしながら軍事反乱が辿る複雑な顛末を物語に仕上げる腕前は超一級品ですし、様々な軍組織の力学が目まぐるしく優劣をくり返す描写も、一体自分はどちらを応援しているのか分からなくなる程めくるめく映画体験だと感じます。個人的には、集合写真を使ったラストシーンの出来栄えには参りました。役者層も分厚く、エンドクレジット29番目まで女優が出て来ないのは無念としても、一体彼らを主演で映画を作れば何本作れるか、とため息が出そうになります。

 

史実の重さに冷静な映画としての判断が鈍ってるんだろうな、とは自覚しつつ、本国で1300万人という超ヒットを記録していることもあって五つ星以外の評価はあり得ないでしょう。今、誰がどちら側か、に神経を使ってかなり疲れることはあるかもしれませんが、”インベーダー・ゲーム”と”いとしのエリー”に興じる1979年首都東京で自衛隊同士が戦火を交えることを妄想させる、生々しい力を感じさせる大傑作だと思います。

 

楽曲について。クーデターの成功を祝う席でチョン・ドゥグァンが歌うのは、ミョン・グックァン(명국환)1955年「放浪詩人キム・サッカ(방랑시인 김삿갓)」、エンドクレジットで流れるのは韓国国軍の軍歌1981年「戦線を行く」。