”YouTubeで観る韓国映画100選”第4弾は、あの可愛いチョン・ヨンソンつながりですが、もう28歳になって(ちょっと煽情的なポスターで恐縮ですが、左の女性はチョン・ヨンソンではなく妹役クム・ボラです)…朴政権から全政権へ変わろうとする激動の時代、強権政治と経済発展の狭間で不条理に苦悩する五人家族を描いて傑作…「小さなボール」

 

塩田が広がるのどかな沿岸町。農道を一組の少年少女が並んで歩いている。ヨンスと幼馴染のミョンヒだ。二人はメンデルの法則について話している。ヨンスの父親キム・ブリ(金不伊)が小人症なのだ。ヨンスの弟ヨンホが悪ガキと取っ組み合いの喧嘩をしていて、妹ヨンヒも応援する。その悪ガキが彼らの父親を”小人”と蔑んだのだ。傍では兄ヨンスが家の壁に描かれた”小人の家”という落書きを消している…時が過ぎて…刑務所から出所したヨンス(ブログ注:恐らく労働運動での収監と思われる)は、その足で下町のバーに向かう。そこにはホステスとなったミョンヒがいる。ミョンヒは”塩田の労働者にはならないで”という約束をヨンスが破ったと嘆く。一方、弟ヨンホはボクシングを続けながら洗車で小銭を稼ぎ、妹ヨンヒは小さな食料品店で働いている。駅に3両編成の電車が着き、一人の背の低い男が降りてくる。彼らの父親キム・ブリだ。サーカス団でトランペットを吹いていたが、サーカス団が解散したのだ。塩田脇の家に着くと、塩田で働く妻が嬉しそうに出迎え、久しぶりの五人揃っての食事だ。しかし間もなく、この五人を苦悩させる報せが届くのだ…

 

長男ヨンスに、子役・二枚目・老け役と今なお韓国映画界を支え続ける大俳優アン・ソンギ、母親に、2013年まで活躍する当時アラフォー美女チョン・ヤンジャ、妹ヨンヒに、彼女も2015年まで活躍する当時ハイティーンの美形クム・ボラ、ヨンスの幼馴染で初恋のミョンヒに、間もなくアメリカへ移住してしまう天才子役ももう20代後半チョン・ヨンソン、次男ヨンホに、彼も2017年まで活躍するイ・ヒョジョン。特別出演では、小人症の父親キム・ブリに、キム・ブリ。

 

1979年パク・チョンヒ大統領暗殺、1980年光州事件、チョン・ドゥファン大統領就任という激動の最中に作られた作品ですが、1978年チョ・セヒ(趙世煕)連作短編集「こびとが打ち上げた小さな球」が原作となっています。基本的には、凄まじい弾圧を伴う強権政治と目を瞠る経済発展という激しい時代に押しつぶされる貧しい庶民を描く社会派ドラマとなっていますが、その独特の香りが不思議な感覚をもたらす作品となっています。考えられる理由が二つあって、一つは原作もしくはイ・ミョンセ監督が醸し出すファンタジックな演出です。例えば、製塩工場の煙突から書物を破いて作った紙飛行機を飛ばす、とか、過去と現在、幻想と現実の境目を行き来する会話、など独特の表現方法が観る者を惑わせます。もう一つは、ズタズタ・バラバラにされたという政府による事前・事後検閲です。例えば、ヨンスの収監の経緯が削除されたり、終盤では、妹ヨンスの行動の辻褄が合わなかったり、全体に不可思議な印象を散りばめることになっているようです。ただ、このことが逆に独特の時代感覚を生み出すという皮肉な結果になったともいえそうです。

 

このような経緯を辿った、或る意味不幸な作品であって、いわゆる完成された社会派ドラマとして観ると結構ギクシャクするかもしれず、五つ星という評価は難しい感じがします。ただ、塩田の広がる余りにも美しい沿岸町風景や、二枚目アン・ソンギ、もし今週TVドラマに出てても不思議とは思わないだろうチョン・ヤンジャ、クム・ボラ、チョン・ヨンソンという三女優の美貌が、息苦しい社会派ドラマに歪で絶妙な”ケミ”を生み出すいう稀有な作品でもあるので、”100選”への選出は充分あり得ると納得できる作品だと思います。時代の歪みが生み出した傑作なのかもしれません。

 

楽曲について。弟ヨンホが電車の中で口ずさむのは、映画「セシボン」に登場した<ツインフォリオ>解散後のソン・チャンシク(송창식)1978年「忘れよう(잊읍시다)」。尚、その他色々な曲を使用していましたが、検閲で軒並み使用不可として削除されたそうです。

 

【YouTube】 난장이가 쏘아올린 작은공(1981) / A dwarf Launches a Little Ball (Nanjang-iga sso-a-ollin jag-eun gong) <한국고전영화 Korean Classic Film>(英・伊字幕付き)