続いてはコロナ禍が本格化して映画観客も大幅に減ってしまった2020年観客動員数8位の作品を…涙にくれた五つ星「ハーモニー」のカン・テギュ監督が贈るハートウォーミング・ストーリー、またも涙腺崩壊か?…「担保」

 

現在の北京。外務省のパク・スンイは初めての韓中首脳会談の通訳を任され、ホテルの化粧室で緊張している。そこへジョンベおじさんから電話が鳴り、「ついに”あの人”が見つかった」と言う。10年探し続けた”あの人”だ。大役を終えスンイは急ぎ帰国の途につく…1993年インチョン(仁川)。高利貸しの集金係パク・トゥソクと軍隊時代の後輩チョンベは、チャイナタウンに出張っている。今日の取り立て相手は、朝鮮族の不法入国女カン・ミョンジャだ。10歳の娘のスンイを連れたミョンジャと会うと、払え、待って欲しい、の繰り返しだ。業を煮やしたトゥソクは勢い余ってスンイを抱き上げ、この娘を明日まで”担保”として預かる、と連れ帰ってしまう。必死で金策に走り回るミョンジャだが、その夜に入管職員によって不法入国者として収監され、翌日強制送還されることになる。翌日、スンイは隙を見て逃げ出しプレハブの家に戻るが母は帰って来ない。翌朝、スンイは意を決して大きなリュックを背負い、母を探しに出るのだが…

 

高利貸しの集金係パク・トゥソク(あだ名:スンボ)に、『パリの恋人』怪しいエロビデオ監督役からずっと応援するソン・ドンイル、成人したパク・スンイに、アラフォーでますます輝くハ・ジウォン、トゥソクの子分チョンベに、主演もあり存在感を増すキム・ヒウォン、10歳のスンイに、ホラー「ホテル・レイク」で達者な演技を見せた公開時点ではまだ8歳パク・ソイ、高校生のスンイに、TVで人気と聞く美形ホン・スンヒ、妖しい飲み屋のママに、怪女優キム・ジェファ。友情出演では、スンイの母親で朝鮮族不法入国女カン・ミョンジャに、監督前作「ハーモニー」の縁でしょう「シュリ」などの名女優キム・ユンジン。特別出演では、ミョンジャの母親に、やはり「ハーモニー」から最も尊敬する大女優ナ・ムニ。

 

”担保(ダムボ)”と呼ばれ続ける女性の切なくも前向きな20年を描く物語ですが、巧い、と見るか、阿漕(アコギ)、と見るか二分されるのではないかと想像されます。物語という意味では確かにそうでしょうが、「ハーモニー」の監督カン・テギュの語り口の見事さには、やはり負けてしまった、という感じです。仕掛けはいたる所にありますが、二つだけ。一つ、履物。汚い小さな運動靴から大人用のサンダル、歩いてすり減った靴から光る紳士靴へと、時の流れと登場人物の思いを表して絶品でしょう。もう一つ、呼び名。ヒロインは”スンイ”と”担保(タムボ)”と呼び分けられ、ソン・ドンイルは”トゥソク”と”スンボ”、さらには、”おじさん(アジョシ)”と”お父さん(アッパ)”と呼び分けられ、物語の流れを巧く作っていると思います。”ここで泣かずにどこで泣く”といった感じです。そして役者の巧さ。とにかく子役パク・ソイが凄い。泣いても笑っても、これが8歳の女の子の演技なのか、と信じられない思いを抱きます。さらに、大学生からスンイを演じるハ・ジウォンも”さすがアラフォーでは無理があるか”と思いきやその透明感は想像のはるか上をいきますし、ソン・ドンイルとキム・ヒウォンも出しゃばらない感じで二人の女優を立てて天晴だと思います。

 

はっきりいえば、いくら涙腺崩壊が狙いとはいえ終盤の展開は”いささか作り込みすぎ”との評は無理もないのではないかと感じるわけですが、何といっても、パク・ソイ嬢の芸達者ぶり、ハ・ジウォンの余りの透明感、そして、長らく応援してきたソン・ドンイルの存在感には抗えず、極めて感傷的な五つ星とします。単なる年寄りの感想なので、大目に見ていただきたいと思います。

 

余談。既に書いた通り、”呼び名”がこの作品の極めて重要なアイテムになっているので若干の補足を。まず、幼いスンイの”トゥソク”の名前についての台詞。彼の名前を初めて聞いて「”トゥ(=頭)”、”ソク(=石)”、そうか!”石頭(固有語で”トルテガリ)”だ」と感想を述べます。漢字も固有語も知る賢いスンイを描写する可愛く洒落たシーンになっています。続いて、新しい名前を付けてあげる、と言うのが”スンボ(승보)”ですが、車から見える1993年LGツインズのチャンピオンシップ祝勝垂れ幕”승부는 끝났다! 내가 보스다!(勝負は終わった! 俺がボスだ!)”から思いつきます。可愛いエピソードですが、1993年の実際の優勝チームはヘテ・タイガースなので、映画的にはいわゆるgoof(ヘマ)ということだそうです。

 

楽曲について。劇中スンイがファンだという<ソテジと仲間(?)たち(서태지와 아이들)>が歌うのは1992年「私は知っています(난 알아요)」。