笑えるチ・デハンつながりで…298万人を集めて大ヒットといえるでしょうが、個人的には結構”容赦のない”と思える作劇法で重い現実に直面する兄弟の確執と再生を描く人情話…「あの日、兄貴が灯した光」

 

リオ・オリンピックに向けての国家代表を選ぶ柔道大会で、弟トゥヨンは着実に勝ち進んでいる。しかし日本人選手との戦いで投げられ後頭部を強打、視力を失ってしまう。その頃、異母兄トゥシクは詐欺で刑務所に服役中だ。弟の失明を聞き、トゥシクはここぞとばかりに弟の面倒を見たい、と涙の演技で仮釈放を申し出て認められる。しかし、彼の本心は弟を利用したいだけだ。家に帰ると、家の中はゴミ屋敷状態で、トゥヨンは人生に絶望して部屋に籠りきりだ。目が見えないので、インスタントラーメンをそのまま齧るのが精いっぱいだ。トゥシクがコンビニ行っている間に、現役時代の女コーチ、スヒョンが訪ねてくる。トゥシクは電話にも出ず、門も閉まりっぱなしだったが、今日は開いていて家に上がり込み、余りの惨状に声も出ない。スヒョンは部屋の片づけを進めるが、そこへ帰ってきたのがトゥシクだ。こうして、兄弟と女コーチの新しい人生ステップが始まったのだ…

 

詐欺で服役中の兄トゥシクに、ミュージカルが本職でしたが映画デビュー「建築学概論」での余りの芸達者ぶりに一気にトップ映画俳優に上り詰めるチョ・ジョンソク、弟で柔道界のスター選手トゥヨンに、ボーイズグループ<EXO>のメンバーというより最早実力演技派と呼ぶべきでしょう「スウィング・キッズ」などのD.O.ことト・ギョンス、トゥヨンの柔道コーチ美貌のスヒョンに、「シラノ;恋愛操作団」「7番房の奇跡」など映画でも魅力を発揮するパク・シネ、兄トゥヨンと不思議な関係を築く休学大学生テチャンに、「恋愛の温度」などのキム・ガンヒョン、国家代表監督に、チ・デハン。

 

とにかく序盤は酷くって、視力を失った弟を利用する仮釈放中の兄の振る舞いは、リタイアの文字が思い浮かぶほど陰惨なものです。また、その後少しずつ弟との距離を縮めるやり方も必ずしも共感できない観客も多いと思われます。しかしながら、脚本は、トゥヨンの母つまりトゥシクの義母との因果などを交える一方、余計な恋愛沙汰を封印したりしながら巧みな語り口で物語を進め、相当に巧いと思います。それにもまして、やはり、役者でしょう。嫌悪すべき詐欺師から物語を始めるチョ・ジョンソクの演技力は圧巻で結局は取り込まれてしまいますし、絶望から始めるト・ギョンスもその後の活躍を予見させる存在感はさすがだと思います。

 

失明や大病やスポーツという題材への思慮や深慮に欠ける、との指摘はある程度マトを得ていると感じざるを得ませんが、観終えた後も引きずるかは個人差が大きいと思われます。日本人には、この極端な影と光を対比させて作る”感動物語”が合わない観客も多いような気がするので、迂闊には近づかない方が良いかもしれません。ただ、チョ・ジョンソク、ト・ギョンス、パク・シネに興味があれば、見逃せないでしょう。

 

ちなみに、エンディングで流れるバラードは、主演チョ・ジョンソクとト・ギョンスによる「心配しないで あなた(걱정 말아요 그대)」で、ミューカル俳優とボーイズグループ・メンバーによるデュエットなので見事な出来栄えです。”2016 형”でYouTubeを検索すると収録動画が見られます。