「花の手」に続けてスタチャン「マストで観るべき本邦初公開韓国映画」つながりで…憧れのBoA主演で、不思議な感覚で贈る美しくも切ないファンタジーの佳編…「秋の郵便局」

 

羅津(ナジン)イム氏という親戚ばかりの村で、間もなく30歳の37代目イム・スリョンはバスで勤務先クムグァン郵便局に通う。乗客もみんな親戚だ。そのバスを追いかけてくるバイクがある。運転しているのはジュン、スリョンとは13親等離れた親戚の若者だが、10年前、16歳のジュンは大学生のスリョンに告白し、スリョンは勢いで「10年間思いが変わらなければ結婚してあげる」と答えてしまったのだ。そしてジュンも間もなく26歳の誕生日を迎えようとしている。スリョンは思わず伏せて姿を隠す。スリョンの趣味は、空き缶や空き箱に絵を描いて様々なオブジェに仕上げることだ。今日も仕事の合間、卵の空きパックの裏に花の絵を描いている。そしてその花はスリョンに話しかける。スリョンには、花の声が聞こえたり、時には時間を止める特別な才能があるのだ。一方のジュンは、スリョンとの海外生活を夢見て、5000万ウォンを貯めようと家畜場、郵便配達、火葬場といくつも仕事を掛け持ちし、必死に働いている。 そして秋が深まり、スリョンの30歳、ジュンの26歳の誕生日が近づいてくる…

 

郵便局に勤める30歳を目前にしたイム・スリョンに、美貌のボア(BoA)、彼女に惚れる13親等離れた遠縁の若者イム・ジュン、インディーズで活躍するというイ・ハクジュ、スリョンの父親の古くからの友人でスリョンを可愛がる遠縁の長老に、『チャングム』で初めて見たものの1970年代から活躍するだみ声が魅力のイム・ヒョンシク、回想のスリョンの父親に、麻薬禍を乗り越えた渋いオ・グァンノク、郵便局のベテラン職員に、『冬ソナ』から15年全然変わらない凛としたソン・オクスク、郵便局長に、味のある名脇役チョ・ヒボン。

 

実に不思議な感覚の作品に仕上がっています。村人すべてが親戚という村で、父親との思い出、自然とのふれあい、そしてある確信に心を寄せるヒロイン像が相当に魅力的で不思議な浮遊感をもたらします。作品は、何故か持っている特別な能力を使おうともしない一方で、自然を愛し発明に精を出す父親との回想や、廃品を使った生活アートの工作に多くの時間を割きながら、ヒロイン像を次第に浮彫にしていく腕前はなかなかのものだと思います。ヒロインを演じるBoAも圧倒的な魅力を見せます。2000年14歳での傑作デビュー・アルバム「ID;Peace B」その後の「ミンナノキモチ」「コノヨノシルシ」などの日本語曲を通じて大ファンで密かに韓国の宇多田ヒカルと呼ぶ天才美人歌手も30代半ばでますますその魅力を輝かせているでしょう。助演では、オ・グァンノクが不思議な吟遊詩人みたいな発明家を演じてピッタリですし、久しぶりにあのだみ声が聞けて幸せなイム・ヒョンシクが優しい遠縁の長老を演じ和ませてくれますし、『冬ソナ』の印象が強いソン・オクスクも有能な先輩役で相変わらずの魅力を見せてくれています。

 

映画としてのスケール感はありませんが、一方でTVドラマとしては、何となくですが地上波放映には馴染まない独特の幻想的な寂寥感みたいなのを感じさせる絵本のような作品で、インディーズ風映画化は真っ当な手段なのかもしれない、と思ったりします。BoAの魅力炸裂で、脇の三人も見事で、個人的には大満足ではありますが、広く評価される作品とはいえないでしょうから、機会があれば…と心にとどめる程度で十分なのかもしれません。