ヒョジョン(孝宗)を演じた二枚目ヨン・ウジンつながりで…実話を元にしたという1986年東西ベルリンを舞台にした余りに残酷な工作員の悲劇を描く…「出国 造られた工作員」

 

冒頭部分の文字起こしの代わりに、あくまで劇中で語られていることを前提に、頭を整理しておきます(ほぼ映画の冒頭部分にあたります)…主人公オ・ヨンミンは韓国人左翼系経済学者で、西独で研究中、韓国本土の反パク(朴)政権・民主化運動への支援を理由に韓国への帰国を拒否され、西独へ帰化、シン・ウンスクと結婚し、ヘウォン、キュウォンの姉妹を授かる。その後、北朝鮮工作員の口車に乗り厚遇に釣られ北朝鮮へ一家で移住するも、工作員教育を受けるなど酷い待遇のため一家で西側への脱出を計画する。1986年、ベルリンでの工作活動を命じられたのを良い機会に、北朝鮮工作員の監視下、一家でコペンハーゲン行きの飛行機に乗る。コペンハーゲンの入国審査でヨンミンと長女ヘウォンは入国できるが、玩具を追って引き返した幼い次女キュウォンと彼女を連れ戻そうとした妻ウンスクは出国できず北朝鮮工作員の手に落ちる。ヨンミンは西ベルリンで西ドイツ連邦情報局の尋問を受けるが米CIAの思惑で釈放され、妻と次女を取り戻すべく、東西ベルリンを舞台に危険きわまりない行動に打って出ることになる…

 

韓国出身経済学者オ・ヨンミンに、硬軟自在の名優イ・ボムス、韓国国家安全企画部チェ・ムヒョクに、アラサー二枚目ヨン・ウジン、北朝鮮工作員キム参事に、今回は悪役お馴染みパク・ヒョックォン、ヨンミンの妻ウンスクに、美形パク・チュミ、ヨンミンの長女ヘウォンに、驚くほど達者な子役イ・ヒョンジョン、ヨンミンの次女キュウォンに、後に「君の誕生日」で驚きの名演少女キム・ボミン、医師カン・ムンファンに、迫力のチョン・ムソン、国家安全企画部パク課長に、むさ苦しいナム・ムンチョル。特別出演では、北朝鮮35号室(対外工作担当)チェ課長に、個性派二枚目イ・ジョンヒョク、大人のヘウォンに、「王様の事件手帖」「死体が消えた夜」の美形キョン・スジン。

 

まずご注意を…観始めてしばらくして、頭を整理しようとネットで元になった事件を調べてしまったのが大失敗です。映画の脚色ぶりや終わり方が分かってしまい、少なくとも映画を観る楽しみの半分を失ってしまった、という感じです。もしこれから観る方がおられるなら、観る前には調べず、観終わってゆっくり調べられることを強くお勧めします…さて、映画としては上出来だと思います。重苦しい冷戦下の分断都市ベルリンを舞台に、韓国・北朝鮮・アメリカを中心とした諜報・工作合戦、冷酷な国家意思、そういったものが一人の経済学者とその家族の運命を狂わせていく過程が見事に描かれているでしょう。役者も見事ですが、政治的優柔不断さと強い家族愛の間で煩悶する経済学者を演じるイ・ボムス、そんな父親のせいで母妹と別れ異国で苦しむ姉ヘウォンを演じるイ・ヒョンジョンが圧巻でしょう。

 

映画としては優れていますが、史実(主人公のモデルは今もご存命です)との落差に困惑する類の作品です。その辺りが映画への評価を大きく分けることになるでしょう。それが、映画の大半が海外ロケという大作でありながらKOBIS統計では10万人も集められず大コケした原因の一つであることは間違いないでしょう。そういった意味で、繰り返しますが、映画の元になった史実については調べないまま鑑賞することを強くお勧めします。

 

その史実について。原作は、主人公のモデルとなったオ・ギルナム(呉吉男)の著書「失われた娘たち おお、ヘウォン、キュウォン(잃어버린 딸들 오! 헤원 규원)」で、映画では、主人公夫婦は、オ・ギルナム→オ・ヨンミン、シン・スクチャ(申淑子)→シン・ウンスクと仮名にしてありますが、娘二人は、ヘウォン、キュウォンと実名になってたりします。この辺りは複雑な事情と関係しているのかもしれません。日本語版wikiにある程度の史実の記載があります。

 

ロケ地について。映画は大半が1986年東西ベルリンを想定した都市での海外ロケで、見事なロケ技術だと思います。実際は、エンドロールにポーランド国とポーランドの南西部の都市ヴロツワフに謝辞が述べられているので、そこでのロケと思われます。