怪女優イ・ボンリョンつながりで…天才ポン・ジュノ監督が贈る社会派SFファンタジーの傑作…「オクジャ」

 

2007年、ニューヨーク。古い工場跡では、バイオ大企業ミランド社のCEOルーシー・ミランダがマスコミを集めてCEO就任式を行っている。姉ナンシーから引き継いだのだ。彼女の発表は、チリで偶然見つかったスーパー子豚についてだ。26匹に増えた子豚を全世界26か国に送り10年かけて科学者がその成長を見守り、環境に優しい彼女たちが遺伝子を組み替えることなしに世界の食料不足を救うと言うのだ。そして最も大きく美しく育ったスーパーピッグを表彰するそうだ…10年後、韓国の山奥。13歳の少女ミジャは祖父と二人暮らしだが、傍らには巨大に成長したスーパービッグ”オクチャ(ブログ注:タイトルは「オクジャ」ですが発音的にはこちらの方が近いと思います。ちなみに漢字は"玉子”と想像します)”がいる。ミジャと”オクチャ”は山の中を走り回って、まるで姉妹のようだ。そこへ、ミランド社の韓国担当パク・ムンドがスーパーピッグの成長を計測する動物学者ウィルコックス博士を連れてやって来る。博士は”オクチャ”を見てその成長ぶりに驚き優勝者と認定する。そして、祖父がミジャの気を逸らせている間に”オクチャ”を連れて下山してしまう。アメリカに連れていくのだ。知らされてなかったミジャは激怒し、なけなしの貯金を握って”オクチャ”を追ってソウルへ向かう。こうしてミジャの”オクチャ”を追う旅が始まる…

 

バイオ大企業ミランド社の前CEOナンシー(姉)/現CEOルーシーの二役に、「スノーピアサー」での怪演が忘れられない英国女優でベネツィア・アカデミー受賞女優ティルダ・スウィントン(Tilda Swinton)、ALF(Animal Liberation Front:動物解放戦線)団長ジェイに、ポール・トーマス・アンダーソン監督「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」などのポール・ダノ(Paul Dano)、”オクチャ”と共に育った山娘ミジャに、「ハウスメイド」などの名子役アン・ソヒョン、その祖父に、大尊敬のベテラン名優ピョン・ヒボン、ALF韓国系団員ケイに、その後「バーニング」「ミナリ」など絶好調スティーブン・ヨン、ALF団員レッドに、英国ロックバンド<Genesis>フィル・コリンズの実娘リリー・コリンズ(Lily Collins)、ミランド社韓国担当パク・ムンドに、主演作連発ユン・ジェムン、若いトラック運転手キムに、後に「パラサイト」名演など若手演技派チェ・ウシク、狂気の動物学者ウィルコックス博士に、「ドニー・ダーコ」などのジェイク・ジレンホール(Jake Gyllenhaal)、オクチャの声(ブログ注:どんな時の声か不明)/車椅子の女性に、「茲山魚譜」など名演が続くイ・ジョンウン、ミランド社の受付嬢に、怪女優イ・ボンリョン。

 

ポン・ジュノ監督作品の系統樹にはいくつかの大枝がありますが、本作はその一本「グエムル」「スノーピアサー」に連なる系統上にあるんでしょう。科学・自然・人間の複雑怪奇な三角関係を独特の寓話口調で語る腕前は、やはり天才的だと思います。製作費は5000万ドル(3~40億円くらい)と聞きますが、特に”オクチャ”の造形と山奥やソウルやニューヨークの風景に溶け込み走り回るVFXは自然でダイナミックで見事だと思います。ストーリーも、ミジャと”オクチャ”の”姉妹愛”を軸に、世界の食料不足、過激な動物保護団体、権勢欲、家畜の悲哀といった要素を複雑に絡めて展開し実に刺激的です。役者も見事で、ティルダ・スウィントン、ジェイク・ジレンホールの怪演を筆頭に、韓国勢ピョン・ヒボン、ユン・ジェムン、チェ・ウシクも素晴らしく、個人的にはその後「バーニング」「ミナリ」など米韓を股にかけて出演する毎に魅力を増していくスティーブン・ヨンが一押しだったりします。

 

ポン・ジュノ監督のこの系統で「グエムル」「スノーピアサー」に続いて3連続五つ星にせざるを得ないでしょう。余り日本での評判を聞かなかったのが不思議なくらい、見事な寓話ファンタジーだと思います。

 

余談。ミジャと”オクチャ”が逃げ込む地下街は、恐らく明洞駅の隣り会賢(エヒョン)駅の<会賢地下ショッピングセンター>と思われますが、”オクチャ”が倒れ込むのが百均<ダイソー(DAISO)>というのが笑えます。そしてそこから流れるのが、ジョン・デンバーが愛を森、山、雨、砂漠など自然に例えて歌う「緑の風のアニー(Annie's Song)」というのが今度は泣かせたりします。