なかなか巧いキム・デミョンつながりで…あの凄まじい恐怖映画「4人の食卓」の女流監督イ・スヨンが14年ぶりに贈る2本目の長編も目茶目茶怖かった…「犯人は生首に訊け」

 

春が近い3月のソウル。漢江の氷が融け始めているが、川岸には首のない死体が浮かんでいる…5月末、ソウル近郊で開発が続く新興都市。再開発の前は連続殺人で有名になった町だ。江南(カンナム)で経営していた病院を潰してしまい、妻子とも別れた内科医ピョン・スンフンは、先輩が経営する小さな個人医院で内視鏡を操作している。スンフンは、1階で精肉屋を営む大家のアパート3階に部屋を借りている。精肉屋には、認知症が始まったチョン老人と息子ソングン、息子の後妻と前妻の息子の高校生が住んでいるようだ。帰ると別れた妻スジョンからの荷物が届いている。まだ住所変更してないので転送が必要なのだ。そんな時、大家の老人が内視鏡検査を受けに来る。検査が終わり局部麻酔が残る朦朧とした状態でチョン老人が呟く…「腕と足は漢南(ハンナム)大橋、胴体は東湖(トンホ)大橋に分けて捨てれば春まで見つからない」…

 

内科医ピョン・スンフンに、主演作連発チョ・ジヌン、チョン老人に、本作公開時81歳1960年代から活躍する「8月のクリスマス」など生きた演劇史シン・グ、チョン老人の息子で精肉屋社長ソングンに、硬軟自在のキム・デミョン、謎のチョ元刑事に、巧い脇役ソン・ヨンチャン、看護師ミヨンに、「オオカミの誘惑」「同い年の家庭教師 レッスン2」などでキュートな魅力を発揮した美形イ・チョンア、スンフンの前妻スジョンに、美熟女ユン・セア。

 

前半は100点満点の恐怖映画になっています。とにかく怖い。それもヒチコック「断崖」の白いミルクみたいにジワっと主人公と観客に迫る感じで、さすが、未だに戦慄を肌感覚で覚えている「4人の食卓」監督の面目躍如といえるでしょう。ただし、後半は評価が分かれると想像されます。見事な脚本ではありますが、その表現方法にアンフェアな感じが否めない部分があるからです。そういった意味では、主人公の趣味である論理的な推理小説というよりは、超常現象を用いた恐怖小説に近いといえるかもしれません。それにしてもチョ・ジヌン、シン・グ、キム・デミョンの三人は巧い。観客を手玉に取る演技力は後述する「庖丁解牛(ホウテイカイギュウ)」そのものでしょう。個人的には、久しぶりに見るイ・チョンアの独特のキュートさが大いなる救いになったというところでしょう。

 

映画的評価は分かれるでしょうが、怖い映画が恋しい時には手に取ってみるのもありかもしれません。

 

ちなみに、ソングンの台詞に、『荘子・養生主篇』から「庖丁解牛(ホウテイカイギュウ)」が出てきますが、調べると、文恵君のために”庖丁”が上手に牛を骨と肉に分けた話から、非常にすぐれた技術を指す言葉だそうです。ただ”庖丁”が人名か料理人を意味する一般名詞かには議論があるようです。刃物の包丁が、”庖丁”が使う刀”庖丁刀”から来たのは確かなようですが、物語にぴったりの言葉だったりします。

 

余談ですが、老人の台詞に出る漢江にかかる橋の名前ですが、東湖(トンホ)大橋は3号線の玉水(オクス)駅~狎鴎亭(アックジョン)駅にかかる橋で、漢南(ハンナム)大橋はその一本下流側にかかり龍山(ヨンサン)区と江南(カンナム)区を結んでいます。