「メタモルフォーゼ」の2年前にキム・ホンソン監督がやはりペク・ユンシク、ソン・ドンイルで撮った、「老人の、老人による、老人のためのクライム・サスペンス」…「必ず捕まえる」

 

地方都市のアリ・マンション。大家シム・ドクスの一日は、家賃滞納者への督促から始まる。今日も、元刑事チェ氏の部屋に向かう。老人福祉館のスタッフが食事サービスをしているにも関わらず、家賃を払わないと追い出す、と詰め寄る。鍵屋が本業のトクスが呼ばれて現場に原付で向かう途中、人だかりがある。老人イ・マンソクが橋から転落死したらしい。近くで、205号室の若いキム・ジウンに出会う。やはり、明日が家賃の日だ、と念を押すことを忘れない。仕事を終えた帰り道「たんぽぽトースト」に寄る。やはり賃貸人ヨンスクの店だ。トクスは彼女にまんざらではないらしい。その頃、少年がサッカーボールを探していて、室内で老人ソ・ジャンスが倒れているのを見つける。なじみのイ巡査から電話があり、トクスがカギを開けるが、老人の孤独死らしい。その夜、トクスは気になってチェ元刑事の部屋を訪ねるが、二人で焼酎を飲むことになる。チェ氏は、亡くなった老人二人は聖堂の炊き出しで見知っていて、水曜日に殺されたんじゃないかと言う。そして今日が水曜日だ。トクスはたまには俺の部屋も覗いてくれ、と言い残して部屋を出る。翌朝、壊れかけていたチェ氏のドアノブを交換しに行って、トイレのノブにかけた縄で首をくくった遺体を発見する。トクスは強引な家賃督促でチェ氏を死に追いやった、と町中から責め立てられる。そんな彼に近づく男がいる。元刑事のパク・ピョンダルだ。こうして二人は、30年前の事件に関わる田舎町での連続殺人に飛び込んでいくことになる…

 

鍵職人でアリ・マンションの大家シム・ドクスに、韓国映画界屈指の二枚目怪優ペク・ユンシク、元刑事パク・ピョンダルに、『パリ恋』以来のファン、ソン・ドンイル、容疑者ナ漢方医に、渋い芸達者チョン・ホジン、賃貸人たんぽぽトーストのミン・ヨンスクに、還暦近くでも可愛いペ・ジョンオク、拉致される205号室キム・ジウンに、キュートなキム・ヘイン、イ巡査に、お馴染みチョ・ダルファン。

 

何せ、口汚い頑固老人の大家と、30年前の事件に異常な執念を燃やす還暦前元刑事が主人公ですから、少なくとも若い観客には絶対にうけない映画でしょう。ただ個人的には、人生の終盤に差し掛かる二人の危なっかしい活躍には、思わず声援を送ってしまいます。脚本もそれなりに凝っていて、架空の田舎町を舞台にした、30年前の連続殺人事件、コピーキャット、若い女性の拉致、芥子の栽培、認知症、などを使った語り口は巧いと思います。また、坂道や階段の多いタルドンネの佇(タタズ)まい、侘(ワビ)しい老人の一人暮らし、ボロい原付自転車、口さがない住民たち、など地方都市の情景も良く活きていると感じます。

 

スマートなクライム・サスペンスを期待すると圧倒的に裏切られるのは明らかですが、老人問題を背景にした独特の雰囲気を持った稀有な犯罪サスペンスといえるでしょう。一定の年齢以上の方には、お薦めです。