しつこく続けてホン・サンス監督第22作、路地裏で繰り広げられる様々な人生の話…「草の葉」

 

路地裏にひっそり佇む喫茶店”カフェ・イドラ(카페 이드라)”に、一人の女性ミナが入っていく。テラス席では、役者キョンスが人待ち顔にタバコを吸っている。ミナは、先に来ていたTV俳優ホンスの前に座る。ミナはヨーロッパに旅に出ると言うが、ホンスは誰と行くかしつこく訊ねる。やがて話題は自ら死を選んだスンヒのことになり、お互いに相手の責任を非難しあう。ホンスは外でタバコを吸いに店を出る。店の窓際には、パソコンに向かう女がいる。アルムだ。アルムは二人の会話に耳をそばだてている。「過ちを犯した身で、どれくらい堂々と生きていくのかしら」彼女の感想は辛らつだ…「大丈夫ですか」隣の席から女の声が聞こえる。中年女性ソンファと初老の男チャンスだ。チャンスは自殺を試み一週間入院していたと言う。長らく在籍した劇団を代表との軋轢で飛び出して、今は金も仕事も住む所もないようだ…アルムの盗み聞きは続く…

 

盗み聞きをする女アルムに、ここまで6作連続ホン・サンス作品主演を続けるキム・ミニ、シナリオ作家を目指す役者キョンスに、ホン・サンス作品2本目の名優チョン・ジニョン、自殺を試みた初老の元役者チャンスに、『オールイン』で初めて見て以来ファンのキ・ジュボン、チャンスの後輩女優ソンファに、ソ・ヨンファ、女流作家チヨンに、キム・セビョク、TV俳優ホンスに、アン・ジェホン、死んだスンヒの女友達ミナに、コン・ミンジョン、アルムの弟ジノに、シン・ソッコ、ジノの恋人でCAのヨンジュに、美貌のハン・ジェイ(クレジットはアン・ソニョン)、自殺した男の上司ジェミョンに、後ろ姿だけのキム・ミョンス、自殺した男の恋人スニョンに、「あなた自身とあなたのもの」では主演イ・ユヨン。

 

今回は、ちょっとした群像劇風な仕上がりです。5組の男女と彼らの会話を盗み聞く女という組み合わせで、5組の内3組が自ら死を選んだ、もしくは選ぼうとした人にまつわる話になっています。さらに1組はアルムの弟と恋人で、キム・ミニは他人事として狂言回しに徹するだけでは済まない、という微妙な役所(ヤクドコロ)をこなしていて、これが映画に奥行きを与えていると感じます。さらに、出てくる初老の男と中年男、キ・ジュボンとチョン・ジニョンがネチっこく図々しい男を演じていて、相変わらずダメ男は重要なテーマなんだ、と再認識することもできます。

 

一見短編集に見えながら、少しずつそれぞれの登場人物が重なり合い、最後には…という脚本もお洒落で、(ダメ男さえ我慢すれば)ホン・サンス風群像劇として座り心地の良い椅子のような作品として広くお薦めしてもよいのではないかと思われます。

 

ちなみに、主な舞台となった「カフェ・イドラ(카페 이드라)」ですが、安国(안국)駅すぐ北側の路地裏にあり、投稿写真を見ると映画そのままの風情です。余談ですが、この駅の南側も風情ある地域で、「永遠の片思い」の舞台になった「サンタフェ」という趣深い喫茶店を探し探し行ったことを思い出します。

 

尚、喫茶店が舞台ということもあり、珍しく場面場面でBGMを選んでいるのも特徴的でしょう。使われた楽曲は以下の通り。シューベルト「即興曲」、ワーグナー「ローエングリン」と「タンホイザー」、オッフェンバック「天国と地獄」、パッヘルベル「カノン」、フォスター「おお スザンナ」、アルムが路地を歩いていて聞こえてくる唯一の歌は、キム・アリム(김아림)「私たち二人の間で(우리 둘 사이에서)」。

 

【ブログ記述間違いの修正と懺悔】

「消えた時間」の感想ですが、主演チョ・ジヌンの監督・脚本作だと思い込んで書きましたが、今回の感想を書くに当たって、主演チョ・ジヌンではなく本作出演のチョン・ジニョンの監督・脚本作だと気づきました。懺悔すると同時に「消えた時間」の感想を修正いたしました。