巧いソン・セビョクつながりで、小ぶりながらピリっと香辛料が効く好サスペンス…「真犯人」

 

事件当日の夜、サンダル姿の男が町を走る。そして、警官や鑑識であふれるアパートに、規制線をくぐって走り込む。「ヨンフン」と叫びながら部屋に入ると、ベッドに女が血を流して倒れている。刑事が彼を部屋から追い出す。部屋を出ると、階段に血まみれのヨンフン、被害者ユジョンの夫が座り込んでいる。走りこんだ男は、友人チュンソンだ…事件6か月後、地下駐車場。ヨンフンが車で待ち伏せしていると、目的の男が自分の車に近づく。ヨンフンは男に近づき殴り倒して、自分の車に引きずり込む。ヨンフンは男を自分の部屋に運び込みガムテープでベッドに縛り付ける。その頃、チュンソンの妻タヨンが地裁の前でヨンフンを待っている。今日は夫の公判日でヨンフンが証言のため来るのを待っているのだ…事件1か月後。ヨンフンが籠るホテルに、事件一週間後にユジョン殺害の疑いで逮捕された友人チュンソンの妻タヨンが夫の公判での証言を頼みに来るが、ヨンフンは冷たく突き放す。そして、ホテルを引き払い、事件当日のままになっているアパートに帰ってくる。椅子が倒れ、いたる所に血の跡が残る部屋を掃除し、片付けていくが、ふと違和感を覚える…

 

被害者の夫イ・ヨンフンに、演技派性格俳優ソン・セビョク、被疑者の妻タヨンに、40代に入りますます魅力的ユソン、謎の男パク・サンミンに、サスペンスはお得意チャン・ヒョクチン、ヨンフンの友人で被疑者チュンソンに、二枚目オ・ミンソク、チョ刑事に、演劇人でもある名脇役チョン・ヘギュン、被害者ユジョンに、美形ハン・スヨン。

 

二組の夫婦、刑事、謎の男というほぼ6人だけのサスペンスなので、映画的で大掛かりな展開は望むべくもないだけあって、評価は相当に割れるでしょう。個人的には、主人公を演じるソン・セビョクのおかげで、かなり好印象です。結果的に狂気じみた執念で事件の事実の追及にのめり込んでいくわけですが、その原動力が、友人の冤罪を晴らす、妻の復讐を果たす、みたいな正義感や情念ではなく、事実が知りたい、証拠が欲しい、「それから、恨むなり、許すなりしたい」という知的本能みたいなものであるところが、物語に独特の乾いた感じを与えていて好感だったりします。さらに、時制を不自然に前後させることによる緊張感や、特に殺人現場などの映画美術が精緻であることで、単なる二時間ドラマにはない奥行も魅力の一つでしょう。

 

とはいえ、必ずしも稀有な脚本というわけでもないので、観るなら、高級な○曜サスペンス、くらいの感覚で臨むのが良いのではないかと思われます。ただ、地上波で放映するにはギリギリか、と思われる暴力シーンもあるので、ご注意ください。