勢いで、もう一本キム・ヒャンギ出演作…元暴力刑事と巨悪との凄絶な戦いを描く…「特別捜査 ある死刑囚の慟哭」

 

タクシー運転手クォン・スンテは、娘トンヒョンを助手席に座らせ、二人で形の崩れたキンパブを頬張る。二人きりの父子家庭で、今日は遠足の日だ。そこへ警官隊が近づき、スンテを取り押さえる。DH財閥の嫁殺害の容疑だ。証拠が揃っており、仁川地裁は死刑判決を下す。インチョン港近くの倉庫。チェ・ピルジェが、始まった、と無線で警察に連絡すると、警官隊がなだれ込み、闇カジノの胴元も客も一網打尽だ。BMWから降り立ったピルジェは逮捕者に名刺を配り、弁護士が必要なら連絡くれ、と営業している。彼は、暴力沙汰で馘になった元暴力刑事で、今は弁護士を紹介する法曹ブローカーだ。中華料理屋では、相棒のキム弁護士が依頼の手紙を見ている。ピルジェは弁護料の3割で依頼を探してくるのが仕事だ。その手紙の中に、チェ・ピルジェ”刑事”宛のものがある。刑事を辞めたことを知らない、有名なDH財閥嫁殺人事件の死刑囚クォン・スンテからだ。減刑を求めるものが多い中、それは無実を訴えており、キム弁護士は金にならないとごみ箱に捨てる。ピルジェは手紙を拾い上げ、持ち帰り、事件を調べ始める。ふと見ると、祖父宛のDH財閥からのパーティ招待状がある。嫁を殺された女総帥からで、祖父は絵を習った縁だと言う。こうして、ピルジェたちは危険な弁護活動に足を踏み入れるのだ…

 

元暴力刑事の法曹ブローカー、チェ・ピルジェに、硬軟自在キム・ミョンミン、更生した前科者のタクシー運転手クォン・スンテに、悲惨な役も笑える役も実に達者キム・サンホ、元検事でピルジェの相棒弁護士キム・パンスに、『パリ恋』チャグナボジ役からずっと応援しているソン・ドンイル、大財閥DHグループの女総帥に、惜しくも今年(2022年)4月に病で早世したTV・映画に欠かせない名女優キム・ヨンエ、スンテの娘トンヒョンに、天才子役もミドルティーン、キム・ヒャンギ、女総帥の右腕パク所長に、悪辣な役も巧いキム・ルェハ、ピルジェの味方インチョン(仁川)警察イム班長に、愛嬌たっぷりパク・スヨン、昔ピルジェを逮捕した天敵ヤン・ヨンス刑事に、お馴染みパク・ヒョックォン。特別出演では、元巡査ピルジェの祖父に、「8月のクリスマス」『勝手にしやがれ』以来ファンの名老優シン・グ、監察医パク博士に、彼も「8月のクリスマス」『冬ソナ』以来のファン、イ・ハヌィ、刑務所収監の死刑囚に、彼も『チェオクの剣』「達磨よ遊ぼう」あたりからずっと注目のイ・ムンシク。

 

物語としては、ハリウッドでも多い、冤罪を晴らすサスペンス、ですが、中盤は遠慮会釈のない残酷な展開が多く、さらに巨悪があまりに巨悪にデフォルメされているので、スマートさを求めるとちょっとしんどいかもしれません。個人的には、あまりにも豪華な演技陣に圧倒された、というのが正直なところです。ともかく韓国エンタメに引きずり込んだ張本人たちが勢揃いなのです。主演のキム・サンホとソン・ドンイルを筆頭に、「8月のクリスマス」老優シン・グとイ・ハヌィ、そしてイ・ムンシク、さらには亡くなったキム・ヨンエまで登場して、まるで個人用韓国映画博物館といった面々だけでウキウキしてしまいます。この脇役陣の層の厚さが、映画の質にも大きく貢献していることを改めて感じ入った次第です。勿論、天才子役キム・ヒャンギも避けて通れないでしょう。今回は泣くシーンが多く切ないのですが、以前にも書いたように乾いた眼を閉じて数秒後にはツツーと涙が流れ落ちる様は、何度もVFXを疑う巧さです。

 

残念ながら、映画そのものの印象より役者の印象ばかりが残り、しかも世間の評価軸とはズレた価値感なので全く役に立たない感想ですが、正直に書くとこんな感じだ、というところです。

 

ちなみに、キム・サンホとキム・ミョンミンの共通の趣味として二度登場する楽曲は、シンガーソングライター、チェ・ベクホ(최백호)の「ロマンについて(낭만에 대하여)」。