<少女時代>スヨンが出てきたので、吉本ばななの短編「デッドエンドの思い出」の秀逸な映画化…「デッドエンドの思い出」

 

カフェ兼ゲストハウス”エンドポイント”。洗濯物を干すユミを店主西山が昼飯に誘う。二人は公園の芝生に座りサンドイッチをつまみながら”幸せ”について語らう…時を遡って…スーツケースを引いたユミが韓国から名古屋に着く。名古屋で働く遠距離恋愛の婚約者テギュはメッセージが既読になっても返事がない。両親や妹公認の恋人なので、最近疎遠な感じの二人を家族一同で心配している。ビジネスホテルに落ち着いたユミは、翌日テギュのアパートを訪ねる。ドアホンを鳴らして出てきたのは、若い女性アヤだ。アヤは彼女を部屋に招き入れる。部屋はまるで新婚夫婦の住まいのようで、アヤはテギュと結婚すると言う。そこへテギュが帰ってくる。「言おうと思っていた」と言うテギュを振り切り、ユミは名古屋の街へ逃げ出していく…

 

主人公ユミに、美形<少女時代>スヨン、カフェ兼ゲストハウス”エンドポイント”店主西山に、NHK『群青領域』 ではシム・ウンギョンを支えるバンドメンバーを演じた田中俊介、ユミの婚約者テギュに、『梨泰院クラス』で知る人も多いでしょうアン・ボヒョン、テギュの新しい恋人アヤに、日本版『コールドケース』で吉田羊の妹を演じた平田薫、ユミの妹ユジョンに、「無双の鉄拳」でソン・ジヒョと共に拉致されたペ・ヌリ、テギュの同僚チンソンに、ここ数年出番が増えたトン・ヒョンベ、無口な”エンドポイント”バイトのニコに、キュートなイ・ジョンミン。いつもお握りを食べている中国人常連客チェンに、”うんこミュージアム”の公式キーモデルだという若杉凩(コガラシ)、ユミが聞き入る路上シンガーソングライターに、本物の森島美玖、茶碗を叩く路上ライブバンドに、日用品演奏ユニットkajii。

 

原作は吉本ばななの短編集「デッドエンドの思い出」から58頁の同名短編で、十数分で読めます。非国民ゆえまたまた韓国映画に日本の名編を教えてもらったことになります。小説からの脚色では、特定されない大都市と地方都市の遠距離恋愛を、韓国と名古屋の関係に置き換えてあり、それに伴い名古屋の景色、電波塔、観覧車、イルカのイラストが印象的な納屋橋などを組み入れたり、ゲストハウスに集う人々を丁寧に書き込んだり、路上演奏や宴会など音楽要素を追加したり、銀杏吹雪を桜吹雪に変えたりしています。しかしながら、原作の持つ失恋からの柔らかな治癒感覚はそのままで、観終わった感覚は読み終わった印象とピタリと重なり、優れた映画化だと思います。個人的には、ホン・サンス作品のような異文化の出会いといったエトランジェ感が加わり、映画的厚みが心地良いと感じたりします。

 

アラサーのスヨンも主人公の心情を美しくくっきり演じて好感ですし、原作の肌触りを再現して名編だといえるでしょう。<少女時代>ファンならずとも、穏やかな映画ファンにはお薦めかもしれません。

 

楽曲について。ユミが聞き入る路上演奏は、森島美玖本人の「Moonlight Flower」、ゲストハウスの宴会でいつも無口なニコが歌い出すのは、Busker Busker(버스커 버스커)「정말로 사랑한다면(本当に愛してるなら)」、エンディングテーマは、劇中にも登場した日用品演奏ユニットkajiiが作りAsukaが歌う「Restart」。