ヒョンビンといえば、これを観なければなりますまい、将来の配偶者ソン・イェジンとの唯一の共演映画、しかもとびっきりの出来ばえだった…「ザ・ネゴシエーション(협상(協商:協議・交渉の意味))」

 

街頭モニターが緊急速報を流す。ソウル良才洞(ヤンジェドン)で人質事件が発生したと言う。現場に一人の女が近づく。ピンヒールにミニスカートという派手な衣装だ。瀟洒な民家では、二人の東南アジア人が男女を人質に取って、逃亡用のヘリを要求している。派手な女はハ・チェユン、危機協商(交渉)チームのネゴシエーターだ。休暇を与えられ合コンの真っ最中だったと言う。立てこもり犯が英語を話すので米国帰りの彼女が急遽呼ばれたようだ。着替えたチェユンが交渉に入るが、突然突入命令が出され、混乱の中、人質は死亡する…タイ。大韓日報イ・サンモク記者が男たちに拉致される。指示したのはマフィアのボス、ミン・テグだ…チェユンは上司のチーム長チョンに辞表を出すが、チョンは帰国後相談しようと海外出張に行ってしまう。チェユンが人質の死に耐えられず家に籠っていると、先輩アン・ヒョクスが訪れ、無理やり引っ張り出す。ソウル地方警察庁ムン庁長(≒警視総監)からの命令だと言う。モニターが並ぶ通信管理センターに着くと、大統領府国家安保室秘書官も同席しており、いきなり交渉を始めろと命じられる。タイからの通信だというモニターの前に座ると、現れたのはミン・テグで、しかも人質は上司のチーム長チョンだ。こうして、チェユンとミン・テグの危険な交渉は突然始まった…

 

ソウル地方警察庁危機協商(≒協議、交渉)チーム警衛(警部補)ハ・チェユンに、今やヒョンビンの配偶者ソン・イェジン、マフィアのボス武器商人ミン・テグに、五つ星連発ヒョンビン、危機協商チーム警監(警部)アン・ヒョクスに、笑える実力派名優キム・サンホ、外事課ハン課長に、巧い名女優チャン・ヨンナム、大韓日報ユン社長に、間抜けな悪役が多いキム・ジョング、大統領府国家安保室ファン室長に、「トガニ」の悪役ぶりがいまだに尾を引くチャン・グァン、マフィアのフロント企業ナインエレクトリクス社ク会長に、曲者脇役チョ・ヨンジン、国家情報院パク2次長に、悪役お得意キム・ミンサン、空軍司令官ソン・ジョンテ中将に、悪役お馴染みハン・ギジュン。特別出演では、危機協商チーム長チョン警正(警視)に、もはや四半世紀の名脇役イ・ムンシク。

 

お恥ずかしいことに「愛の不時着」の印象からか、てっきり糖尿病になりそうな甘い話だと勝手に思い込んでいた作品ですが、やはり映画は観てみないことには始まらないと痛感させられた一本です。メインの物語は、閉ざされた通信管理センター内のモニターの中で進み、目の前に悪党と人質がいるのに使える武器は言葉だけ、という究極状況を使ったサスペンスは圧巻です。伏線の使い方も見事で、新しい犯罪映画のテンプレートになり得ると思われます。今回の立役者は、これまで映画女優として余り評価してこなかったソン・イェジンです。悪党の狙いも分からず、時には人質の命も奪われ、それでも交渉し続けなければならない過酷なネゴシエーターを実にビジュアルに演じていて感服です。

 

以下の評価にはネタバレが含まれますので、十分ご注意願います。

 

ともかく、映画的には十分五つ星に値する出来ばえですが、1点減点とします。観終えた後に、ミン・テグにヒロイックな印象が残った、というだけの理由です。冷静に考えると、ミン・テグは、ラストで告発された巨悪4人組よりもはるかに直接的な重罪犯だと思われます。それだけ映画に騙された、あるいは、ヒョンビンの魅力に惑わされた、と高く評価すべきでしょうが、悔しさゆえの1点減点だということです。それにしても、ヒョンビンは「レイト・オータム」で初めて五つ星をつけて以来、連続7本中5本が五つ星、平均4.7星という凄さで、どうもヒョンビン沼に落ちてしまったようです。

 

本筋に全く関係ありませんが、ミン・テグが人質の少女に好きな歌を尋ね、少女の好きな「象」の歌を国家情報院の要員に歌わせるシーンがあります。ここで国家情報院の要員が歌ったのは「象(코끼리 )」という童謡で、違うよ、と少女が歌ったのは「象おじさん(코끼리 아저씨)」という別の童謡です。どちらもYouTubeで聴けます。