イ・ウォンジョンが登場したので…その成否によってその後の世界地政地図を大きく変えたに違いない、朝鮮戦争インチョン(仁川)上陸作戦を迫力とサスペンスいっぱいに描く…「オペレーション・クロマイト(原題:インチョン(仁川)上陸作戦)」

 

1950年9月始め。日本に多大な被害をもたらすことになる台風ジェーン接近の報告を聞きながら、国連軍総司令官マッカーサーは、東京港に集結し出撃の命令を待つ大艦隊を見下ろす…一週間前。南に向かう軍用列車の中を一人の将校が先頭車両に向かって歩くと、各車両で兵士が一人また一人とついていく。先頭車両につくと将校たち8人は、北朝鮮情報管理局パク・ナムチョルと部下たちを殺害し、列車の外へ遺棄する。X-Ray作戦として、海軍諜報部チャン大尉たちが彼らになりすましインチョン(仁川)に侵入するためだ。彼らは、インチョン(仁川)地区防御司令官リム・ゲジンに監査の名目で近づきインチョン(仁川)の共産軍防衛情報を得て、KLO(Korea Liaison Office:韓国連絡事務所)に無線で流すが、機雷の配置図だけは手に入らない。そして、刻々と上陸決行日9月15日が近づいてくる…

 

X-Ray作戦海軍諜報部隊チャン・ハクス大尉に、最近は『イカゲーム』で大注目ながら昔から演技派イ・ジョンジェ、北朝鮮インチョン(仁川)地区防御司令官リム・ゲジンに、硬軟自在の名優イ・ボムス、国連軍総司令官ダグラス・マッカーサーに、ハリウッドの名優リーアム・ニーソン、インチョン(仁川)市立病院看護師ハン・チェソンに、映画ではホラー「ホワイト:呪いのメロディ」以来10年ぶりキュートなチン・セヨン、X-Ray作戦潜入隊員ナム・ギソンに、今回は笑いを殆ど封印した大ファン名コメディアン、パク・チョルミン、KLO(Korea Liaison Office:韓国連絡事務所)インチョン(仁川)地域隊長ソ・ジンチョルに、彼も硬軟自在の二枚目チョン・ジュノ、チェソンの叔父で理髪師KLO隊員チェ・ソクチュンに、渋いキム・ビョンオク。特別出演では、KLO隊員キム・ファヨンに、TVでは『私の名前はキム・サムスン』でブレークの名コメディエンヌ、キム・ソナ、チャン大尉の母親に、超のつく名女優キム・ヨンエ、チャン大尉が入れ替わる北朝鮮情報管理局パク・ナムチョルに、このブログでも出ずっぱりパク・ソンウン、チャン大尉とど迫力の格闘を見せる北朝鮮兵士に、娘サランちゃんの父親としての方が有名かもしれない格闘家チュ・ソンフンこと秋山成勲、北朝鮮最高司令官キム・イルソン(金日成)に、イ・ウォンジョン。

 

まず題材が凄い。開戦まもなく釜山周辺を除く半島ほぼ全域を制圧した共産軍の根元を断ち、戦況をオセロのように反転させた仁川上陸作戦を正面から取り上げた映画は寡聞にして初めてです。事実マッカーサー自身が成功確率五千分の一だと言ったこの作戦がなければ、或いは失敗していれば、アジアを中心に何10億人の人生が全く違ったものになった筈です。映画的にも秀逸です。司令室でのマッカーサーの苦渋に満ちた決断と、現場のX-RAY或いはKLOに携わる人々の命をかけた行動を対置しながら、上陸決行日に向かって刻々と進む物語は、凄まじいサスペンスをもたらすでしょう。確かに、共産勢力下で反抗する人々の活動や犠牲がなければ成功しなかった作戦であるのはその通りなんだろうと改めて思い知った次第です。そういう意味では、五つ星の実力はあると思いますが…

 

引っかかるのは、エンタメ映画と史実のバランスです。イ・ジェハン監督が共産軍に囲まれた半島南部でのポハン(浦項)戦闘を描いた「砲火の中(邦題:戦火の中へ)」でも感じましたが、やはり映画人としてジェームズ・ボンドとブロフェルドの対決みたいに描きたい気持ちは分からないではないものの、また充分楽しんだものの、それで良いのか、との感じが残ります。映画単体の評価なら間違いなく五つ星ですが、一点減点はやむなしとします。

 

ちなみに、この作戦で北の本隊と切り離され、南側に残されパルチザン化した共産軍の悲劇を描いたのが、1990年チョン・ジヨン監督の「南部軍」です。