再びソル・ギョングに戻りますが、原作が小説だけあって実に緻密に構成されたダークというよりブラックなミステリーですが、後述する理由により、個人的には…「殺人者の記憶法:新しい記憶」

 

雪の残る山道、年老いたキム・ビョンスがトンネルの前まで歩いてきて立ち止まる。目の周りが痙攣し、視線を落とすと白いスニーカーを左右逆に履いている…鉄格子がついた病室のベッドに、キム・ビョンスが手錠で繋がれている。若いキム検事が入ってくるが、手には「キム・ビョンスの日記」と書かれた分厚い紙束を持っている。「全てを話してもらおう」キム検事が切り出す…9月8日、派出所でピョンスがぼんやりと座っている。顔馴染みのアン所長が名前を聞くが、ピョンスは答えられない。やがて娘のウニが現れ、左右逆の履物を直し、頭を下げて迷子になった父親を引き取る。17年前、ピョンスは雪道で車が激しく横転する事故を起こし、その後遺症もあり認知症が進行し続けているのだ。家に帰ると、ニュースが地元で2件続く連続殺人を伝えている。ピョンスは慌てて、自室のパソコンでパスワードのかかった「記憶」というフォルダを開く。そこには、彼が犯した数々の連続殺人の記憶が綴られている。ピョンスは自分の仕業ではないかと疑ったのだ。そして間もなく、ピョンスは3件目の連続殺人と遭遇することになる…

 

連続殺人犯で引退した獣医キム・ビョンスに、ソル・ギョング、カンファ警察署ミン・テジュ巡査に、「パイレーツ1」では主演のキム・ナムギル、ピョンスの娘キム・ウニに、ガールズグループ‹AOA›元メンバーの美形キム・ソリョン、派出所長アン・ビョンマンに、この後セクハラ禍が発覚する名優オ・ダルス。特別出演では、ピョンスの姉で修道女に、「麻婆島」が印象的なキル・ヘヨン、文化センター詩の講師に、相変わらずお笑いイ・ビョンジュン、若いキム検事に名脇役キム・ミンジェ。

 

まず、この映画には「殺人者の記憶法」というオリジナル版があり、おそらくですが、かなり有名な作家キム・ヨンハの小説「殺人者の記憶法」の忠実な映画化で、本作「殺人者の記憶法:新しい記憶」は映画的にオリジナル版の顛末を大きく変えたアナザー・バージョンのようです。とは言え、こちらを観れば、オリジナル版の顛末は想像に難くないと勝手に思っています(観て確かめることは多分ないと思いますが…)。ちなみにポスターですが、右端がアナザー・バージョン用で、左2枚はオリジナル版用です。両バージョン合わせてでしょうがKOBIS統計によれば260万人以上という十分な観客を集めており、ミステリーの質としては、紙の上で徹底的に練られたこともあって実に緻密だと思います。スニーカーとか痙攣とかボイスレコーダーとか日記とか小技も冴え渡り、連続殺人鬼の深淵を見事に描いているでしょう。個人的には、「胡蝶の夢」や「鏡の国のアリス」のような錯綜する夢の世界を独特の残酷美の中に映し出しているように感じます。

 

ただ、認知症という、多くの人が闘い或いは共存しようと奮闘している症状がミステリーの中核になっている点がどうしても生理的に受けつけません。その点では映画に全く非がないわけですが、ソル・ギョングの演技が神がかり的であったとしても、彼の役者魂が挑戦したいと思わせるような難役であったとしても、やはり映画として評価することはできないでしょう。残念です。

 

ちなみに、ウニとテジュがデートで観ている映画は2016年「グッバイ・シングル」、登場して笑わせているのはお馴染みマ・ドンソクとキム・ヨンゴン(ハ・ジョンウの実父)です。