キム・ユンソク主演作から、500万人を集めて大ヒット、韓国版「エクソシスト」の秀作「黒い司祭たち (邦題:プリースト 悪魔を葬る者)」

 

イタリアの教会。イタリア人老若司祭が話し込んでいる。韓国で12形象(悪霊)の一つが見つかったと報せがあったのだ。二人は自分たちが行かねばならないと考える…夜のソウル。あるビルから、あのイタリア人老司祭が袋に入った何かを抱えて飛び出してきて、若い司祭の運転する車に飛び乗る。袋の中の何かは獣のように唸り声をあげ、老司祭は袋を抱え一心に祈りを唱える。車は、ソウル市街を疾走するが、横から走ってきたトラックに激突され、車は大破し、その何かは闇の中に走り去る…ソウル教区。司教を始めとする幹部たちが、沈鬱な面持ちであるヨンシンという少女について相談している。ヨンシンはある交通事故をきっかけに悪霊に取り憑かれているのだ。そして、彼女を「駆魔(悪霊退治)」しようとするキム・ボムシン・ペドゥロ神父にも言及する。伝統的な教会社会において、キム神父は問題児として決して評判が良くないようだ。そのキム神父が教区へタクシーで到着する。キム神父は幹部たちに、「駆魔」を続けることが必要だと説くが、世間体を気にする幹部たちはなかなか納得しない。しかし司教は、非公式になら「駆魔」を進めて良いと妥協する。キム神父は優秀なプジェ(副祭:補助司祭)が必要だと言う。そんな時、ヨンシンが病室から飛び下り意識不明の状態に陥る。キム神父は、ソウル・カトリック大学校に副祭の候補を探しに行くが、その条件は厳しい。神学生チェ・ジュノ・アカトは、試験でカンニングし、夜には寄宿舎を抜け出し酒を買いに行く悪童だが、そのチェ神学生に副祭の白羽の矢が立つ。こうして、キム神父とチェ副祭の「駆魔」が始まるが…

 

キム神父に、500万人超えは当たり前のドル箱スター、キム・ユンソク、チェ副祭(プジェ)に、彼も500万人超え連発中の二枚目カン・ドンウォン、悪魔に付魔(憑依)された少女ヨンシンに、この演技で映画賞を総なめにしたパク・ソダム、カトリック大学長神父に、名脇役キム・ウィソン。

 

このブログでは、脚本か役者に入れ上げることが多いですが、今回は、脚本も書いた初監督チャン・ジェヒョンの演出が第一功労者と感じます。ストーリーは、解き放たれてしまった五千歳の悪魔が少女に取り憑き、それを駆魔する、というだけのシンプルなものですが、全編に広がる悪夢的なイメージが主役と感じます。襲いくる猛犬、轢き逃げ事故、悪臭、子豚、鼠、多国言語での呪いと祈り、牛の首、小さなフランシスコの鐘、といったイメージの洪水が、あり得ない話に実に豊かな存在感を与えていると思います。また、煙草と焼酎を手放さないヤサグレ神父とどこかおどおどしながらも天才的な悪童神学生という人物造形も見事ですし、この二人が映画が中盤に入ってから初めて顔を合わせるという運びも、観客をうまく異世界に引きずり込む仕掛けになっていると感じます。もちろん役者も見事で、キム・ユンソクとカン・ドンウォンは硬軟を巧みに使い分けハマリ役ですし、特殊メイクで汚い言葉を吐き続けるパク・ソダムも圧巻です。

 

2時間現(ウツツ)を忘れさせるのが映画の役目だとすると、十分にその仕事を達成していると思います。アジア製のためか、本家「エクソシスト」より遥かにおぞましい肌感覚をもたらすという意味で、高く評価できるでしょう。500万人を集客しただけの実力を感じる一本です。

 

ちなみに、クライマックスで使われた橋は東湖(トンホ)大橋で、本編でもカン・ドンウォンの後ろを電車が通りますが、地下鉄3号線が走っていて、橋の両端には漢江(ハンガン)を挟んで玉水(オクス)駅と狎鴎亭(アックジョン)駅があります。