もう一本‹少女時代›ですが、このテーマでこの配役⁉︎という衝撃のロマンス作品「モラルセンス 君はご主人様」。

 

児童向けサービスを展開する大企業CEN Kidsの広報チーム。チョン・ジウは「目が怖いから彼氏ができない」と陰口を叩かれる有能なキャリア女子だ。その職場に、有能イケメン男子チョン・ジフがチーム長代理として転属してくる。女子社員にはモテモテの憧れの的だ。ある日、チョン代理が郵便室に自分宛の荷物を取りに行くと、間違えて名前の似ているジウに渡したという。必死でジウのところへ走っていくチョン代理だが、ジウは既に荷物を開け、トゲトゲのついた黒皮の首輪を怪訝そうに眺めている。チョン代理は犬の首輪だと必死で弁明するが、大人の玩具店のビラが同封されていて弁解も無駄になる。夜ランニングするジウは、大人の玩具店のウィンドウ前で立ち止まり、首輪や鞭に見入る。家に帰ると、ネットでBDSMやD/S(支配/隷属)について調べ始める。一方のチョ代理は、同じ性向の人々が集う掲示板「純粋の王国」で、隠していた性癖を知られてしまった悩みを相談する。二人の関係はどこへ向かうのだろう…

 

有能なチョン・ジウに、デビュー曲「また巡り逢えた世界」以来聞き逃したシングルはないはずのガールズグループの頂点‹少女時代›の美形ソヒョン、二枚目チーム長代理チョン・ジフに、よく知りませんがやはり人気ボーイズグループ‹U-KISS›でJunの愛称で人気らしい二枚目イ・ジュニョン、ジウの相談に乗るドッグカフェのオーナー、ヘミに、よく見るバイプレイヤー、イーエル、チョ代理の元カノ、ハナに、主演作も多いキュートなキム・ボラ。監督は、「なつかしの庭」「6年目も恋愛中」「ハッピーログイン」など癖のあるロマンスが得意の女流監督パク・ヒョンジン。

 

とにかく、テーマと配役を見て、ひっくり返るほど驚きました。BDSMやD/S(支配/隷属)を題材にしながら、いまもアイドルとして憧れの的である二人の美男・美女をどう料理するのか想像もつきません。とにかく序盤は完璧です。冷静で完璧主義者のヒロインが、この性癖についてゼロから調べつつ理解を深めながら、自分の中の共感に気づいていく様をソヒョンの美貌と美しいカメラワークで追いかけますが、ひょっとしたら自分にも…と思わせる圧倒的な映画体験です。特に、深夜のオフィス、ソヒョンが字幕にできない単語で絶叫的に罵るシーンは映画史に残るでしょう。ただ個人的には、よくあるお仕事ドラマのようにさまざまな試練に見舞われ乗り越えていく中盤以降は平板な感じが否めません。せっかく尖った題材と奇跡的なキャストを手にしているので、もう少し冒険的に料理すれば、ダイバーシティ社会実現ニーズに鋭く刺さる大傑作になった可能性が高いと思われます。ちなみに、現在NHKでアロマンティック・アセクシュアル(非恋愛・非性欲)という性向をテーマにした「恋せぬ二人」という秀作ドラマが放送されていますが(まだ途中なのでつまらない終わり方をするのかもしれませんが)、そのような尖った問題提起が欲しかったという感じです。

 

とは言いつつ、ネットのレビューも好意的なものが多いですし、女流監督ならではなのかその美しく研ぎ澄まされた絵作りは圧巻なので、妖しく少し痛い世界が苦手でなければ、試してみる価値は十分にあるかもしれません。とにかくソヒョンという逸材を映画界が次にどのように活かしていくか、次回作が待ちきれない思いではあります。次は、‹girl’s day›…