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いかにも怪しい邦題ですが、コリアン・エロスを期待して借りると100%期待は裏切られるでしょう…知る限り初めての、尊敬するオ・グァンノク単独主演、「あやつり人形 ~嬲られる女~ (原題:うちの姉)」。

テジョン(大田)、音楽大学。弦楽パートの練習中、バイオリンを弾く音大生ヨンスの携帯が鳴る。ソウルの姉チンソからだ。嫌がっていた筈なのに、突然ソウルへ訪ねてくるように言い、隠していた住所を教える。タクシーで姉のマンションに着くと、警官とやじ馬が集まっている。転落死体があり、刑事は姉チンソだと言う。他に身内もなく一人で涙する葬儀では、見知らぬ美しい夫人が訪れ「賻儀(香典)」を差し出す。次に事件を担当するキム刑事が訪れ、事件は自殺だと言う。警察署では、いつもの少女がキム刑事を訪ねて来る。ミシン工場で同僚外国人労働者の視線が怖い、とキム刑事に度々訴えに来るのだ。視線だけではどうにも出来ない、とキム刑事は今回も冷たく追い返す。姉のマンションでは、ヨンスが姉との電話録音を聞き返している。翌日、ヨンスはキム刑事を訪ねる。わずか25分前に会話したばかりなのに自殺はあり得ない、とキム刑事に訴えるが、キム刑事は取り合わない。姉チンソは鬱病で通院していたと言うのだ。大金持ちソン会長の家では、息子嫁であるあの美しい夫人が会長に、妹ヨンスに姉チンスのマンションを与えて良いか尋ねる。会長の答えは「好きにしろ」とそっけない。マンションはソン会長が姉チンスを住まわせていたのだ。ヨンスは姉のマンション近くのスーパーに立ち寄る。スーパーの女主人は、ヨンスが妹とも知らず、姉チンソの噂話を始める。姉のマンションでは、大音量の音楽や悲鳴などの騒音トラブルがあり、さらに、老人たちや若い男が頻繁に出入りする身持ちの悪さだと言うのだ。チンソのお手伝いから聞いたと言う。しかも、若いピザ配達員たちも姉との関係を自慢していると言う。ウンヒョン祈祷院では、あの美しい夫人が一心に祈りを捧げている。祈祷院の庭では、男が一心に穴を掘っている。祈祷院の院長の話では、昔の或る大罪の償いだそうだ。一方ヨンスは、姉の元お手伝いを訪ねる。その元お手伝いによれば、多くのジジイと関係を持っていたと言う。若い男とも関係があり、"死にたい"と叫んでいたとも言う。キム刑事はヨンスに、解剖の結果、自殺を覆す証拠はなかったこと、そして妊娠16週目だったことを告げる。ヨンスは自殺ではないと言い張るが、キム刑事は聞く耳をもたない。納得できないヨンスは以前のもう一人の元お手伝いを訪ねる。彼女の話によれば、妹の幸せだけを望む優しい姉だったと言う。姉が好意を持っていたように見える若いピザ配達員の姿も浮かび上がる…ヨンス、キム刑事、美しい夫人を巡る悲劇たちは、まだ幕を開けたばかりだ…

事件に翻弄されるキム刑事に、パク・チャヌク作品などで光る尊敬すべき名脇役オ・グァンノク、妹ヨンソに、整形を疑ってしまいそうに整った人形系美少女ヤン・ハウン、悲劇的な境遇に苦しむ姉チンソに、美しい裸体を惜しげもなく晒すナチュラルな美形ファン・グミ、何故かヨンソを気遣う美しい夫人に、TVではお馴染みらしい美熟女チェ・スリン、その夫人の姑で大金持ちソン会長に、お馴染みの脇役クォン・ビョンギル、ウンヒョン祈祷院のカン院長に、彼もお馴染みのイ・ホソン。特別出演では、姉チンソの元お手伝いボレロに、迫力満点キル・ヘヨン、スーパーの女主人に、超個性派脇役ファン・ジョンミン(女優の方)。

いかにもコリアン・エロスを想起させる下品な邦題ですが、シナリオはかなり奥深い出来ばえだと思います。一人の女性の死を巡る序盤は、ありがちなサスペンスに終わるのかと思わせながら、中盤から、さらにそれぞれ様相の違う3件の悲惨な事件が波状的に襲ってきて、観終えた時には、その群像劇的な構図はかなり深い趣を感じさせます。サスペンスというよりは、格差、暴虐、憎悪、復讐など暗黒面を抉り出すような社会派物語と捉えた方が良いでしょう。残念ながら、語りのバランスやエンディングの処理法など、納得しがたい所もあるので手放しで褒められませんが、長編処女作イ・ジェラク監督の伝えたいことはきちんと伝わって来ると思います。低予算映画でしょうから、オ・グァンノクを除いて、演技陣に奥行きが足らないのも止むを得ないでしょう。オ・グァンノクも、名演ではありますが、彼の持ち味である脱力した遊びのような部分が出ていないので、多少もの足りません。とはいえ、栄光ある初主演作として、是非、次への飛躍台として欲しいと願います。そして気になるのは、主演ヤン・ハウンです。美容整形のポスターに現れそうな人形顔の美少女ですが、これが結構癖になりそうな中毒性を感じさせます。個人的には、是非、次回作に期待したいと思ったりします。

そうは云っても、コアなオ・グァンノクのファン以外には、到底お薦め出来そうもないでしょう。ただ、作品のほんの一部しか表さないようなコリアン・エロス風の下品な邦題は、余りにも作品を観る努力を怠っていると、憤慨せざるを得ません。本作は「犬のような日の午後」「愛と悲しみのマリア」「アフリカ」など相当癖のある作品へ役者として出演したことのあるイ・ジェラクの監督長編処女作ですが、次回作を期待するには、十分な出来ばえだと云いたいと思います。