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現時点で本年度9位に位置する350万人を集めて、ヒットと云って良いでしょうが、おいおい、こんな映画がヒットしてちょっとヤバくないかい、ってな感じの刑事アクション・サスペンス、「最後まで行く」。

人気のない雨の夜道。西部署警査(≒巡査部長)コンスが車を飛ばす。署からの電話は、内務監察が来るので早く机の鍵を持って来い、と叫んでいる。そこへ妹ヒヨンから電話が入る。コンスが抜け出した母親の葬儀に早く帰って来い、との催促の電話だ。道路へ野良犬が飛び出してくるが、コンスは何とか避けて一安心したのも束の間、男が飛び出してきて、跳ね飛ばしてしまう。コンスは男に近づくが、息はない。コンスは911に通報しようとするが、そこへまた妹からの着信が鳴る。さらに、遠くからはパトカーが近づいてくる。コンスは思わず死体を物影に隠し、自分も身を潜める。パトカーは通り過ぎるが、もはや911に通報する気は失せている。コンスは、死体をシートに包みトランクに隠す。車を走らせると、検問がある。飲酒運転取り締まりだ。西部署強力班コ・ゴンス警査と名乗るが、警官たちは信用しない上、コンスは葬式を抜け出したため酒を飲んでいる。警官たちはしつこい。一人の巡査が、フロントグラスのひびに気づき、トランクを開けろと言う。コンスは、警官たちと揉み合いになるが、そこへ無線が鳴り、刑事としての身分が証明されたという。そんな時、西部署では内務監察がコンスの机を調べているが、厳重に鍵がかかっている。身分が明らかになったコンスは、交通警官たちに威張り散らしている。内務監察が鍵を壊して引出しを開けると、大量の札束がある。内務監察班は賄賂のリストを掲げ、班長を含め、みんな賄賂を貰っているのは分かっている、と責めたてる。コンスは、高架の下に車を停めて、頭を抱える。母親の葬式中で、ひき逃げし、死体を抱え、署では内務監察なのだ。コンスは斎場に戻る。葬儀屋が、コンスの母親に死に装束を纏わせ、棺桶に納め、木釘で蓋を閉める。その時、コンスはある計画を思いつく。葬儀屋に金を握らせ、深夜12時まで棺桶の母親と二人きりにして欲しいと頼む…こうして、コンスの苦難の時が始まるのだ…

バツイチ子持ち強力班賄賂刑事(警査)コ・ゴンスに、困り果てる役を演じさせると天下一品イ・ソンギュン、コンスを脅す謎の男パク・チャンミンに、何を演らせても巧い大ファンのチョ・ジヌン、強力班班長に、いつも班長役のような気がする名脇役シン・ジョングン、コンスと仲の悪い同僚チェ刑事に、「息もできない」など小悪党を演らせたら抜群の芸達者チョン・マンシク、コンスの妹ヒヨンに、色っぽい美形シン・ドンミ。

おいおい、賄賂警官がひき逃げして、しかも、その遺体を母親の棺桶に隠す? そんな話、観る奴がいるか? と左脳は冷静ですが、右脳は、おいおい、刑事コンスよ、このピンチ、どうやって凌ぐんだ? と興奮しっぱなし…ってな感じの作品です。コンスをピンチに陥れる仕掛けをよく次から次から思いつくもんだ、まるで韓国版「追いつめられて」みだいだ、と半ばあきれ顔ながらも、つくづく感心してしまうシナリオは、なかなかの腕前と云わざるを得ないかもしれません。とはいえ、道徳心の高い方には、申し訳なくてとてもお勧めできないのも、間違いないでしょう。一方で、ブラックな笑い、泥臭いアクションなどもなかなかで、このキム・ソンフンという監督の脱力系でブラックな演出力は、それなりに評価できると云えるかもしれません。例えば、男の死体を母親の棺桶に隠すまでの一連のシーンのハラハラ感などは圧巻で、そこのサスペンスだけ取れば、五つ星でもおかしくない程だったりします。役者では、やはりイ・ソンギュンでしょう。「逮捕王」「火車」「僕の妻のすべて」「ヘウォンの恋愛日記(原題:誰の娘でもないヘウォン)」「ソニはご機嫌ななめ(原題:私たちのソニ)」など最近ダメ男(もしくは困り男)ばかりを愛嬌たっぷりに演じていますが、本作でもその本領発揮で、彼が主人公でなければ、このかなり無茶苦茶な映画は成り立たなかったかもしれません。一方のチョ・ジヌンですが、大ファンではありますが、本作の純粋な悪党役は、いま一つの感じです。独特の灰汁(アク)も感じますが、彼本来の屈折した感じに乏しく、もう少し凝った悪役だったらなぁ、という感じが残ります。

いずれにしろ、本物の幽霊が紛れ込んだお化け屋敷というか、整備が不十分なジェットコースターというか、確かに2時間存分にハラハラできはしますが、でもなぁ…という思いの残るアクション・サスペンスです。相当に観客を選ぶでしょう。