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昨年暮れから今年始めにかけ400万人を超える大ヒットを記録しましたが、観て納得。007シリーズを彷彿させる程に驚くほど完成されたサスペンス・アクションの傑作、「容疑者」。

「大量の脱北者は既に2万人に上っている」。その一人チ・ドンチョルは大勢の官憲に追い詰められ、漢江大橋の欄干を超え河に飛び込む…時は遡って…トンチョルは、様々なメモが貼り付けられたソウルの地図を見つめながら、過去の悲劇を思い起こす。突然降り出した雨の中、屋外の洗濯機をビニールで覆うトンチョルに、ずぶ濡れの女が脱北者ドキュメンタリーに協力すれば金になると近づく。トンチョルは何も言わずに家に入る。映像作家キョンヒは、脱北者トンチョルの何かに執着しているようだ。同僚のチュ記者が追いかけてきて、彼女の無謀を諫める。大都会ソウルの夜を、トンチョルは酔客を乗せて代行運転に励んでいる。酔った客がばら蒔く紙幣を黙って拾うトンチョルの姿を、キョンヒのカメラが捉えている。トンチョルは場末の飲み屋に呼ばれる。新聞は、ヘジュ・グループ会長パク・コノが明日ピョンヤンを訪れると報じている。その新聞の向うには、当のパク会長がいる。パク会長は、トンチョルの運転する車で帰宅の途につく。パク会長は、脱北者トンチョルを支援しているのだ。トンチョルの運転する車が、会長の豪邸に着く。ムン執事は、キム・ジョンイル(金正日)と並んで写るパク会長の写真の前で、会長の息子はまだ北朝鮮に残っていると言う。執事は、会長からの贈り物として、ある住所を書いたメモを渡す。脱北者リ・グァンジョが住むトンデムン(東大門)のサムウィ・マンション308号だ。会長は、トンチョルがリ・グァンジョを必死で探していることを知っていたのだ。トンチョルは屋敷を出るが、屋敷の監視カメラが動作していないことに気づく。その時、既に暗視スコープをした襲撃者が会長の寝室に忍び込んでいて、会長に薬物を注射している。トンチョルは会長の寝室に駆け込む。襲撃者はトンチョルに襲いかかるが、トンチョルは鮮やかな手並みで退ける。虫の息の会長は愛用の眼鏡をトンチョルに渡し、始末しろと言い残し息絶える。その様子を近くのバンから監視している連中がいる。国情院のキム室長たちだ。やがて警察を名乗る男たちが現れるが、連中はトンチョルに眼鏡を渡せと銃を突きつける。キム室長の部下たちだ。トンチョルは銃をかわし逃げ出す。キム室長は、ワルサーP99で会長の死体に二発撃ち込み、同じ銃で執事と女中頭を射殺、トンチョルを殺人犯として手配する。翌日、ソウル上空、韓国空軍輸送機から男たちが落下傘降下する。ミン大佐が率いる情報機関特殊部隊だ。パク会長暗殺事件を捜査しているのは、当の国情院キム室長だ。そしてトンチョルのアパートにもサイレンサー銃を持った怪しい人影が現れる。トンチョルは部屋を抜け出すが、男たちは、凶器の銃ワルサーP99をトンチョルの部屋に置き、立ち去る。部屋を抜け出したトンチョルは、近くで彼を見張っていたキョンヒの車に乗り込む。キム室長は、トンチョルをキム会長暗殺犯として追うと宣言する。そこに、ミン大佐が現れる。トンチョルには過去の因縁から激しい闘争心を燃やす猟犬だ。こうして、トンチョルは、強大な国家権力から執拗に追われながらも、ある目的からクァンジョを追わねばならない、絶体絶命の「容疑者」になったのだ…

超凄腕北朝鮮工作員の過去を持つ脱北者のチ・ドンチョルに、アクションスターとの印象とはほど遠かったんですがその印象を180°覆す驚くべき熱演コン・ユ、そのトンチョルを激しく追う国軍機務司令部(韓国軍の諜報機関)ミン大佐に、コメディからバイオレンスまで何でもこなしあと数年で五大名優に名乗りを上げると信じる中堅きっての名優パク・ヒスン、悪辣な国情院キム室長に、幅の広い名優ながらやっぱり悪役はピッタリのチョ・ソンハ、とある因縁からトンチョルを追い彼の逃亡と深く関わっていくドキュメンタリー作家チェ・ギョンヒに、彼女も芸域の広いキュートなユ・ダイン、ミン大佐の右腕チョ大尉に、殆ど印象に残らなかった脇役ながら今回は実に名演チョ・ジェユン、トンチョルの過去の悲劇に深く関わる元北朝鮮工作員リ・グァンジョに、わずか2、3年で主演クラスの存在感を持つ驚くべき名脇役に昇り詰めたキム・ソンギュン。特別出演では、暗殺されるヘジュ・グループのパク会長に、来年には映画歴が40年になる名老優ソン・ジェホ。

結構好感の耽美ホラー「鬘」やはりパク・ヒスンが重要な役を演じる「セブンデイズ」のウォン・シニョン監督作品ですが、まずは、余りにグレードアップしたサスペンス・アクション映画としてのクオリティに驚かされた、というのが第一印象です。二度登場するソウル中心街や坂道の多い下町を使った度派手なカーチェイス、やはり二度登場する巨大ショッピングモールや下町の屋根を使った生身の人間チェイス、さらに、何度か登場する凄まじい格闘シーン、これらのアクションシーンのクオリティに息を呑みます。007シリーズやハリウッドを凌ぐと云って過言ではないでしょう。個人的感覚ですが、「編集」の力量が凄いと思います。CGを殆ど使わない各シーンのスタントの質も高いですが、様々な視点からの映像を実に効果的に「編集」していると思います。CGで誤魔化す映画が多い中、こんな映画は貴重です。ストーリーも良く練られています。北朝鮮でのキム・ジョンイルからキム・ジョンウンへの権力移行という背景に、冷酷な暗殺、悲惨極まりない虐殺事件、凄まじい拷問、謎の化学式、プエルトリコのサンファンや香港での諜報戦、など時空を超えた要素を巧みに織り込んでいくシナリオは、相当な出来ばえだと思います。さらに、役者が凄い。ともかく、まずはコン・ユでしょう。勝手にソフトな優男というイメージを持ってましたが、それを激しく裏切る演技です。ほんの少し裸体を見せますが、そのCGかと思わせるほど鍛え上げられた肉体には、世の女性や一部の男性は狂い咲くのではないかと想像します。コン・ユを取り巻く演技陣も見事です。みんな良いのですが、やはり、凄まじい執念でトンチョルを追うパク・ヒスン、過去の悲劇の当事者としてトンチョルに追われるキム・ソンギュンが絶品だと思います。

エンディング、何となく空想理想主義的に過ぎる幕引きもあって違和感がないと云えば嘘になりますが、そんなものを補って余りあるクオリティを持ったサスペンス・アクション作品だと思います。この作品を五つ星にしない、という選択肢はあり得ません。