昨年170万人を集めて中ヒット、ソン・イェジンとキム・カプスという意外な顔合わせのヘビー・サスペンス、「共犯」。
1980年代の色あせたビデオの中で、幼いチョン・ダウンは、「タウンは俺の心臓だ」との父スンマンの声に愛らしく応えている…現在、病院のベッドに横たわるチョン・ダウン。大学院卒、26歳、就活中の女性だ。ぼんやりした頭で小学生の頃を思い出す。急に降りだした雨の日、父スンマンは少し遅れて学校に着き、タウンを見つけられない。そこへ、見知らぬ夫婦から傘を貰ったというタウンが駆け寄る。帰りの車の中、父スンマンはいつものように、タウンに書き取り問題を出す。タウンは少し間違えるが、仲睦まじい父娘の姿だ…少し遡(サカノボ)って、2013年6月、ソウル。近づく幼いハン・チェジン君誘拐殺害事件の公訴時効期限に、マスコミも特別番組で犯人検挙を訴えている。喫茶店では、報道機関の面接に向かうチョン・ダウンに、面接の練習として、友人チェギョンとポラが公訴時効の是非や、1997年以降執行されていない死刑制度について質問している。タウンは、時効廃止と死刑存続を支持すると語る。そこへ、父スンマンが宅配業者として荷物を搬入してくる。タウンは、チェギョンとボラに父親を紹介する。父スンマンは、娘をよろしく、と言い残して仕事に戻る。後日、タウンは面接に落ちたことを知る。父スンマンは、定職を持たない父親のせいだと、タウンを慰める。タウンは、一週間の皿洗いをかけて父親にある勝負を挑む。それは、激辛麺の早食い競争だ。しかし、やっぱり父スンマンの勝ちだ。記者希望のタウンは、チェギョンとポラを誘い、「悪魔の囁き:ハン・チェジン君誘拐事件 実話」という映画を観に行く。その中で、実際の犯人の声が流されるが、タウンは、それが父スンマンの声や話し方や「終わるまで終わらないのだ」といった言い回しがそっくりなのに気づき青ざめる。しかも、ポラまでもタウンの父親の声に似ていると言い出す。重苦しい思いを抱え家に帰ると、父スンマンは、TVのリモコンを握ったままソファで寝込んでいる。タウンは、ネットでハン・チェジン君誘拐事件のサイトを探し、再度、犯人の声を聞くが、タウンの疑念は深まるばかりだ。一方、「悪魔の囁き」の上映により、寄せられる情報が増え、警察は犯人探しにやっきだ。タウンは、ポラと焼き肉に行く。その時、ポラの父親が浮気していることに気づいた時の話を聞き、ポラが父親にしたように、父スンマンの携帯電話や財布、パソコンなど、父親の身辺を探り始める。そして、父親の週末の楽しみ、釣りに行くところを尾けるのだが、それは、高級レストランでの配車係のバイトだった。平穏な父娘に戻ったかに見えたが、町に出かけるタウンの後を尾ける男がいる。父スンマンのかつての知り合い、シム(心)・ジュニヨンだ…
就活中の大学院卒26歳チョン・ダウンに、『夏の香り』以来のファンである個性派美形ソン・イェジン、その父チョン・スンマンに、硬軟自在の演技力で主演も充分にこなす渋いキム・ガプス、スンマン・タウン父娘に執拗にまとわりつく謎の男シム・ジュンヨンに、「家門」シリーズではお笑い炸裂ながらシリアスも巧いイム・ヒョンジュン、時効間近の男児誘拐殺人事件解決に焦る刑事チャン係長に、こちらも硬軟自在の名脇役キム・グァンギュ。特別出演では、誘拐され殺されたハン・チェジン君の復讐に燃える父親ハン・サンスに、大好きなカン・シニル、タウンの男友だちキム・ジェギョンに、TVでは新人賞も獲ったらしい二枚目イ・ギュハン、同じく女友だちヨン・ボラに、整形しちゃったのか一目ではそうとは分からなかった芸達者チョ・アン。
ヘビー・サスペンスとしてのシナリオ、その出来ばえは相当高いと云えるでしょう。15年前の陰惨な男児誘拐殺害事件への公訴時効の期限が、7日前、4日前、15時間前、55分前と、刻々と迫るシチュエーションを巧く活かしながら、様々に張りめぐらされた伏線を、ラスト10分で、見事にピースとして所定の場所に嵌めていく語り口は、サスペンス・ファンにも充分評価されるのではないかと想像します。ただし、描き出されたジグソーの驚くべき絵柄が好ましいものかどうか、は観客を選ぶかもしれません。1時間半ほどの短尺ですが、その濃密な演出は、まだ30代という新人監督クク・トンソクの将来に期待をさせるに充分だと思います。「私の愛、私のそばに」「君は僕の運命(邦題:ユア・マイ・サンシャイン)」などに、脚色や助監督として携わってきただけのことはあります。役者では、やはり、キム・ガプスとソン・イェジンです。キム・ガプスは、善人でも悪人でも軽々と演じきる実力派ですが、今回は、その境目を危うく行き来する難しい役所(ヤクドコロ)を完璧に演じていると思います。特筆すべきは、ソン・イェジンです。「無防備都市(邦題:ファム・ファタール)」「白夜行」などでの悪女への挑戦が幾分上滑っていたのに比べ、今回、等身大の娘役でありながら、父親への疑念に呑み込まれていく辺りの演技は、かなり魅力的です。特に、彼女の作品につきものの恋愛情緒を一切排除しての演技は新鮮です。個人的には、いよいよ、キュートでコミカルな領域から、大人の女優への転機になる作品かもしれない、と次回作に激しい期待を感じます。
作品自体は、決して楽しいものではありませんが、若い監督、超実力派男優、超人気女優というちょっと違和感のある布陣が、独特の世界観を紡ぎだした秀作ヘビー・サスペンスだと思います。
ちなみに、事件の鍵でもある父親の口癖「終わるまで終わらないのだ」は、ヨギ・ベラの"It ain't over 'til it's over."という名台詞なんだと語るシーンがありますが、このヨギ・ベラ、本名ローレンス・ピーター・ベラは、主にNYヤンキースで活躍した名選手、名監督で、実際ヨギイズムと呼ばれる様々な名言を残したそうです(by Wiki)。