今年550万人を集めて大ヒット、ソウル警察庁特別監視室と天才犯罪者の暗闘を描いた、傑作サスペンス・アクション、「監視者たち」。
この作品には20分にも及ぶアバンタイトルがあって、それなりに完結して、しかも良く出来た二つの短い物語が描かれています。従って、以下に書く粗筋は、その範囲でのネタバレが含まれていると言えるでしょう。純粋に映画をお楽しみになりたい方は、以下の粗筋は読まれない方が良いかもしれません。良く、お考えください。
ソウルメトロ(地下鉄)2号線、カンナム(江南)行き。ハ・ユンジュ は、ドアに寄り掛かりスマフォをいじりながら、さりげなく周りに視線を巡らす。暗号名「隼(ソンゴルメ)」は、座席で眠りこけている。とある駅で、数独を解きながら電車を待っていたジェームスが乗り込んでくる。ジェームスの携帯が鳴り、相手はナショナル・フーズを名乗り食品の注文を始める。突然の列車の揺れに眠りからさめた「隼」は突然立ち上がり、新聞を落とし、前を歩く女性にぶつかり彼女の紙袋が散乱する。紙袋を拾い上げた女は、文句を言いながら立ち去り、誰かが「隼」の落とした新聞を拾い上げる。ジェームスは、電話しながらユンジュや「隼」の後ろを通り抜けていく。電車がヨクサム(駅三)駅に着く。「隼」が降り、間を置いてユンジュも降りる。そしてジェームスは、直後、締まりかけたドアを開け、ホームに降り立つ。ジェームスはビルの階段を上り、屋上の駐車場に停めてあった或る車に忍び込み、何かを仕掛ける。一方、ユンジュは、「隼」を尾けているようだ。「隼」は、電話ボックスに入り電話帳に何かを書きなぐったり、怪しい素振りを見せている。コンビニではみすぼらしいカバ男が1100ウォンのミネラルウォーターを買うが、1000ウォン札しかない。店員は、男の持ち物にあった電子マネーカードで決済する。一方、ハンバーガー屋では、「隼」がハンバーガーに食いついているが、やや遅れてユンジュが入ってきて、「隼」と離れて座る。ジェームスは別のビルの屋上に立ち、眼下の新星貯蓄銀行を見下ろしている。黒いボックスカーでは、武装した男たちが16時の銀行の閉店を待つ。16時直前、1ブロック離れたビルの屋上駐車場で例の車が爆発し、同時に、黒いボックスカーから武装した男たちが銀行店内に乱入する。男たちは貸し金庫室に押し入り、特定の貸し金庫を次々こじ開けていく。屋上のジェームスは警察無線を盗聴しながら、次々と男たちに指示を出す。パトカーが次々とやってくるが、目指すのは爆発現場のビルだ。やがて、銀行からの警報も鳴り、パトカー隊は混乱する。3分で仕事を終えた男たちは、ボックスカーに戻り、逃げ出し、パトカー隊の一部がボックスカーを追いかける。そこへ、例のカバ男が運転する大型トラックが割り込み、パトカーの行く手を塞ぎ、ボックスカーは逃げ延び、カバ男も人込みに紛れる。ハンバーガー屋。突然「隼」が立ち上がり、ユンジュに近づき、「何故、俺を尾けるんだ」と問い詰める。ユンジュは人違いだと言い張り、立ち去ろうとするが、「隼」は彼女の腕をつかみ、席に座らせる。彼は監視官を訓練するファン班長で、ユンジュは訓練生なのだ。ファン班長は、彼女の尾行方法の欠陥を次々にあげつらう。次に、地下鉄内で状況を問うが、ユンジュは、驚くべき観察力で地下鉄内の出来事を再現する。ただ、ファン班長が落とした新聞を誰が拾ったかだけは思い出せない。ファン班長は、目を閉じろと言う。やがて、ユンジュは、それが青いパーカーを着た若い男だったことを思い出す。自分は落第か、と問うユンジュに、ファン班長は何も答えず去る。ユンジュは、ファン班長が電話ボックスでなぐり書きしたメモを思い出す。そこには、「出勤せよ」と書かれている。
(何と、ここでタイトルバック。ここまでは、20分を超えるアバンタイトルなんです)
ソウル警察庁特別監視室ファン班長(暗号名「隼(ソンゴルメ)」)に、韓国映画界の至宝ソル・ギョング、新人監視官ハ・ユンジュ(暗号名「花豚(コッデジ)」)に、硬軟自在の美形演技派ハン・ヒョジュ、冷酷な天才犯罪者ジェームスに、映画は久しぶりの超のつく二枚目チョン・ウソン、犯罪の仲介人チョントン(伝統)に、こんな悪役はお手のものキム・ビョンオク、ファン班長の上司イ女性室長に、ベテラン脇役チン・ギョン、若手監視官タラムチュィ(リス)に、6人組男性グループ<2PM>のイ・ジュノ。エピローグへの特別出演では、「泥棒たち(邦題:10人の泥棒たち)」で好演したサイモン・ヤム(Simon Yam)。
ソウル警察庁特別監視室と天才犯罪者の暗闘を描く本作は、さすが、550万人を集めるだけの実力があります。緻密な犯罪と新人監視官の誕生を描く、20分に及ぶアバンタイトルには驚かされましたが、勿論、そこには様々な伏線が仕込まれていて、本編でのサスペンスを否が応にも高めるシナリオは、並の実力ではありません。共同監督の一人チョ・ウィソクは「静かな世の中」で実にトリッキーなサスペンスを生み出していて、その腕前は本作にも活きていますし、もう一人のキム・ビョンソは撮影監督出身なので、ソウルでのダイナミックな追跡劇を見事に映像化していると云えるでしょう。とは云え、やはり三人の役者です。ソル・ギョング。その人情味があって現場を知り尽くした率先垂範型のリーダー像はビジネス書で絶賛されそうなくらい美しいです。この役者に成りきることが出来ない役なんてないのでしょう。ハン・ヒョジュ。抜群の観察力で事件の糸口を見いだす新人監視官を演じ、ほぼスッピンながら、どアップにも耐える存在感には驚かされます。「花豚(コッデジ)」という暗号名に怒り、マイクを付けたままトイレに駆け込む、といったコミカルなシーンでも、その魅力全開だと思います。そして、チョン・ウソン。美しい容姿に、並外れた知性と冷酷さを隠す天才犯罪者像も絶品と云っていいでしょう。逆に云うと、周りを囲む脇役陣に存在感がやや乏しく、演技陣としての奥行きや広がりに欠けているのは、否めないかもしれません。
「エネミー・オブ・アメリカ」でも取り上げられた高度な監視社会を描いていて、国家安寧と人権擁護が激しく確執する今、こういう状況を、カッケェと見るか、ヤベェと見るかは、観客の自由なんですが、そういう観点から観るのもありかもしれません。目茶滅茶面白かった作品ですが、五つ星にはやや及ばず、といった所でしょうか。
余談ですが、「数独」というパズル、日本ドメスティックだと思ってましたが、「suudoku」「sudoku」の名前で全世界的に楽しまれているそうです。知りませんでした。