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今年700万人を集め、現在「観相」と4位5位を争う大ヒット、「隠密に偉大に」。

「俺は犬のように生まれ、怪物として育った」。吹雪の北朝鮮、ピパ岬。若き超エリート諜報員ウォン・リュファンは、ゴムボートでの韓国侵入命令を待つ。9年間に渡りリュファンを鍛え上げてきた上司キム・テウォンは、「我々が再び会うのは、祖国統一の時か、敵味方に別れて戦う時だけだ」と告げる。そして、5446秘密特殊部隊ウォン・リュファンは、荒海にボートを漕ぎだす。2年後、ソウルの下町(いわゆるタルトンネ)。今はトングと名乗るリュファンは、飛んで来る物体の距離と方向を見定めている。直径150mm、重さ400gの物体が飛んでくるのだ。知りながらも、その物体はトングの頭にヒットし、トングは砂場に倒れ込む。それは、トングを馬鹿にする幼い悪ガキ兄弟チウン、セウンの投げた小石だ。トングは心の中で、悪ガキ共に悪態をつく。24歳、トングと名乗るリュファンは、語学にも武術にも学問にも秀で、2万倍の競争率に勝ち残った北朝鮮超エリート諜報員だが、今は、子供にも無力だ。韓国では、町内一の間抜けを演じなければならないのだ。ソギ・スーパー。女主(アルジ)チョン・スニム(58歳)は、トングに早く起きろと怒鳴っている。トングの雇い主だ。トングは、毎月20万ウォンの安月給にも関わらず、これまでに4,752,870ウォン貯めた、と喜ぶ。トングは、コヨリで鼻をつつきクシャミして、鼻たれに変身し、階段から転げ落ちる。女主人はあきれ果てるが、「韓国潜伏中行動綱領1」に従い、日に少なくとも3度は、階段を転げ落ちて間抜けを装う必要があるのだ。トングは店先で、人々を監視するが、そこにいるのは、普通すぎる下町庶民だ。美しいユン・ユラン(22歳)が通りすぎる。小さな会社で経理をしている。トングが彼女に見とれていると、ユランの高校生弟ユジュンが殴り掛かる。姉を守っているつもりなのだ。うつらうつら店番をしていると、例の悪ガキ兄弟が安物ソーセージを万引きするが、トングは寝たふりをしながらも、きちんと記録をつける。そんな寝惚けたトングの前に、キャバレー歌手ランが現れ、煙草が欲しいと言う。トングは、彼女の豊かな胸元から目が離せない。トングの前に、見すぼらしい郵便局員ソ・サングが訪れる。16年間韓国に潜入する北朝鮮連絡員だ。トングは、何も変わったことはない、と報告するしかない。党からは何の連絡も指令もないのだ。トングが見つめるのは、古めかしいサムスン製のポケベルだ。雨の中、下町の路地をトングは歩く。悪ガキ兄弟とその母が近づくと、路地で野糞をしてみせる。「韓国潜伏中行動綱領2」に従い、一カ月に少なくとも2度は、公衆の面前で小便をしてみせ、半年に1度は、公衆の面前で糞をしてみせるのだ。しかし、そこには美しいユランまで現れ、トングの青春は終わる。それ以来ユランは冷たく、そのショックでトングは寝込んでしまう。ユ・ドゥソク(33歳)は、女主の息子だ。二人は、艶かしい美女ランの家に米と卵を配達する。そこに、この辺りの大家主コ・イスン(65歳)が現れる。どうやら、ランの隣に新しい店子(タナコ)が入ったようだ。それは、黄髪のリ・ヘランだ。ヘランがトングの部屋を訪れ、二人は激しい格闘になる。5446秘密特殊部隊の同期でライバルなのだ。しかも、ヘランは、5446部隊創設者の将軍リ・ムヒョクの息子だ。彼には、何か任務があるようだ。ある日、トングは町中でヘランを見かける。トングは都会まで彼の後を追うが、ヘランは大きなケースを抱え、巨大なビルに吸い込まれる。何とそこは、ロック音楽のオーディション会場だ。しかし、ヘランの下手くそなギターが通用する筈もない。そんな時、悪ガキの弟セウンが泣きながら、トングを訪ねて来る。兄チウンが消えたという。トングはチウンたちの家に向い、チウンの立ち小便の跡を調べる。トングは、微かなチウンの声を頼りに下町の屋上を駆け抜け、そして辿り着いたのは…

若き超エリート北朝鮮諜報員ウォン・リュファン(今はトング)に、「泥棒たち(邦題:10人の泥棒たち)」など今をときめく若手二枚目キム・スヒョン、その同期で黄髪の諜報員リ・ヘランに、既に主演作品も多い若手演技派パク・キウン、二人の後輩でやはりエリート諜報員リ・ヘジンに、ついこの間まで子役だった筈なのにいつのまにかイケメン青年になっているイ・ヒョヌ、三人を鍛え上げた北朝鮮の強面教官キム・テウォンに、最近硬派な作品が続く名優ソン・ヒョンジュ、トングを雇う下町のスーパー女主人スニムに、下町のおばさん役はうってつけパク・ヘスク、16年間郵便局員として韓国に潜入する連絡員ソ・サングに、最早主演級の貫祿を見せる名優コ・チャンソク、三人を追い詰める韓国国情院エージェントのソ・スヒョクに、脇役とはとても呼べない凄い存在感キム・ソンギュン、素朴な理髪店パク氏に、お馴染みシン・ジョングン、目茶苦茶色っぽい場末の歌手ランに、「風と共に去りぬ」など艶かしい役はお手のものイ・チェヨン。特別出演では、ヘランの父親で5446秘密特殊部隊の創設者リ・ムヒョクに、大好きなチュ・ヒョン。友情出演では、トングの初恋相手ユランに、清楚な美形パク・ウンビン。

原作は、漫画家HUN(チェ・ジョンフン)の同名ウェブ漫画ですし、韓国映画お得意のハイブリッド作劇法もあって、イケメン青春物語、下町人情物語、国際陰謀物語の三つが渾然となって進む展開は、実に刺激的です。果たして、どの要素が中心になっていくか、は観て頂くしかありませんし、どの要素がお目当てかによっては、大いに落胆する可能性も否定できませんが、とにかく700万人という凄い集客をみせた作品の実力は、単なるイケメン目当て映画などとは全く異なる次元の完成度を見せていると云えるでしょう。役者では、やはりキム・スヒョンです。ずば抜けた頭脳と肉体を持ちながら、下町一の間抜けを演じる、という難しい役所(ヤクドコロ)を実に伸び伸びと演じています。巧い、の一言です。同僚を演じるパク・キウンとイ・ヒョヌも、女性観客の熱狂を呼んでも止むなし、の好演です。個人的には、鬼教官ソン・ヒョンジュ、下町風情溢れるパク・ヘスク、捻った役柄のコ・チャンソク、そして、妙に人情味溢れる国情院エージェントを演じるキム・ソンギュンの四人でしょう。それぞれ、凄まじくデフォルメされた難役ですが、彼らベテランの四人が、若い主役三人を支えることで、物語に実に深い陰影を与えていると思います。

繰り返しますが、決して観客の思惑どおりに進む物語ではないとも思われますので、余り予断を持たずに向かい合うことが望ましいかもしれません。極めて深刻で難しい物語背景を持ちながらも、間抜けなギャグと切れ味鋭いアクションで仕上げた、実に不可思議で迫力満点のエンタメ作品だと思います。

ちなみに、劇中、黄髪リ・ヘラン演じるパク・キウンが、ギター片手に「イムジン河」を歌うシーンがあります。それは、50年近く前、ザ・フォーク・クルセダーズが歌うのを聞いたメロディーと完全に同じだと感じました。長らく耳にしてなかったので、凄まじく懐かしいシーンでした。