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WOWOWで録画してたのを急に思い出して…70万人ちょっとの動員なのでヒットとは云えないでしょうが、演出・演技が濃密な調和を見せてくれる大時代的メロドラマの秀作、「レイト・オータム (原題:晩秋)」。

アメリカの閑静な住宅街。顔面痣だらけのアナが、よろめきながら歩いているが、ふと立ち止まり、自宅へ駆け戻る。自宅には、自ら手にかけた夫の遺体が…7年後。囚人番号2537番として服役する模範囚アナは、母親の訃報を受けて72時間の外出が許され、葬式に参列するためシアトル行の長距離バスに乗る。次の停留所で、ジゴロを生業とする韓国人フンが、誰かに追われるように乗り込んでくるが、運賃が足りない。アナは、30ドルを貸す。金は返していらないと言うアナに、フンは無理矢理自分の時計を預ける。パーキングエリアでフンの携帯が鳴り、フンの上客オクチャが家を出て、その旦那が、血眼でフンと妻を探しているので気を付けろと言う。バスは夜通し走り続け、早朝、シアトル、ユニオン・ステーションに着く。フンは、金を返し時計を受け取るんだと、自分の携帯番号のメモを渡すが、アナは、ほどなくそのメモを捨て、実家に向かう。一族は温かくアナを迎えるが、家を売るため書類にサインが必要だったり、墓碑の字を間違えたと騒動になったり、アナには居場所がない。庭に出たアナに、幼なじみのワン・ジンが近づく。アナの夫殺しの原因になった男だ。フンは、金持ち夫人オクチャと洒落たホテルで過ごし、まとまった金を手に入れる。アナは街に出て、小洒落たコートとドレスを買って着替え、アクセサリを身につけ、街を彷徨うが、刑務所からの位置確認の着信があり、囚われの身であることを思い知らされる。アナは、駅のトイレで、買ったばかりのコートとドレスを脱ぎ捨て、元の地味な服に着替える。街のベンチで放心するアナを、通りがかったフンが見つける。借りた30ドルを返そうとするフンだが、アナの答えは意外なものだった…

ジゴロのフンに、いわゆるコンミナム・オルチャンともてはやされますが最近奥行きのある存在感を感じさせるヒョンビン、夫殺しで服役するアナに、アン・リー監督「ラスト、コーション」で衝撃デビューしたタン・ウェイ(湯唯)、アナの幼馴染みワン・ジンに、始めは流暢な中国語で気づきませんでしたが良く見かける韓国人脇役キム・ジュンソン、フンの上客金持ち夫人オクチャに、90年「真由美」でキム・ヒョンヒ(金賢姫)を主演し今も妖艶なキム・ソラ。

この作品は、66年「晩秋」(主人公は、後に国会議員になるシン・ソンイルと当時の人気女優ムン・ジョンスク、81年「晩秋」(主人公は、『冬ソナ』で知らない人はいないでしょうチョン・ドンファンと「母なる証明」でウォンビンの母親として衝撃のカムバックを果たしたキム・ヘジャ)のリメイクですが、全く古めかしさを感じさせないのは驚きです。この監督キム・テヨンは、伝説の名ホラー・シリーズ「女校怪談」第2作「少女たちの遺言」でデビューし、トリッキーなファミリー・ドラマ五つ星「家族の誕生」を演出しているという捉え所の難しい監督ですが、今回の演出ではさらに新しい領域を切り開いたように思います。無意味とも思える長さで、ヒョンビン、タン・ウェイをじっくり撮る手法は、普通に撮れば30分で終わってしまうかと思えるくらいのしつこさで、観客によっては違和感を覚えたのではないかと想像させるくらいです。しかし、個人的には、この演出が絶妙に効いていて、加えて、異国で、国籍・言語の違いという要素を取り込むことにより、実に斬新な息吹を原作に与えたんだと感じます。特に、中盤、深夜のマーケットで、アナが中国語の分からないフンに中国語で過去の事件を告白するシーンの、その研ぎ澄まされた尖り方は、映画史上に残る名シーンと云っても過言ではないでしょう。二人の役者の反応も見事です。勿論、いつも容姿を気にする軽薄なジゴロを演じるヒョンビンも驚くほど深いですが、やはり、タン・ウェイでしょう。いわゆる派手な美人という感じではありませんが、監督のじっくり撮る手法に驚くほど奥深く反応していて、エンディングの頃には、完全に引き込まれてしまいます。7年の服役で塞がった耳たぶの穴にピアスを苦しそうに通すシーンなどは、それだけで涙を誘う程の名演です。「ラスト・コーション」の艶技ばかりが印象に残ってましたが、凄まじい演技力を持った女優だったんだと再認識しました。

観る前には、何故か「キワモノ」作品との印象があって、それで録画してたことも忘れてたんでしょうが、スピード感や主人公以外の群像的表現は全く物足りないとしても、監督と二人の主人公が描き出す世界の奥深さからして、五つ星とせざるを得ないでしょう。ゆったりと切なく、そして、美しく哀しい、現代的メロドラマの逸品だと思います。