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以下の感想は、幾分、或いは、相当辛口かもしれません。楽しみにされている方、観て楽しかった方は、ここから先、読まれない方が良いかもしれません。

昨年から今年にかけて250万人を集めてスマッシュ・ヒット、微妙な味わいの恋愛映画、「絆創膏」。

消防士カンイルが病院に駆け込んでくる。同僚消防隊員たちの制止を振り切り救命室へ飛び込むが、そこには、息を引き取った妻のチユンが横たわる。彼は、妻の亡骸の上に泣き崩れる…3年後。インチョン(仁川)、カチョン(嘉泉)大学キル(吉)病院。2年前、MVR(僧帽弁置換術)を受けた患者が、突然の頭痛で苦しんでいる。女医ミスは、患者の手足の痣を虐待の跡と判定し、病院が揉め事に巻き込まれるのを恐れ、入れ墨を入れたやくざ風の夫に、適当な処方箋を与えて追い返す。カンイルの務めるソチョ(瑞草)消防署に出動指令が届く。現場に着くと、そこでは例の入れ墨夫が、突然倒れた妻を助けてくれと叫んでいる。救命医は、動脈瘤破裂と診断する。病院につくと、入れ墨夫はメスを持って暴れ、止めようとしたカンイルを殴る。病院は、ミスと同僚女医ハユンを停職にする。入れ墨夫が病院相手に訴訟を起こし、最悪、二人の医師免許が剥奪されることになるという。弁護士は、入れ墨夫が殴った消防士カンイルを探し、彼に入れ墨夫を告発させろと言う。ミスはカンイルに会いに行き、告訴を頼むが、カンイルは、入れ墨夫に同情し、彼女を責める。さらに、交通事故で投げ出された無数のヒヨコを救出する現場にいるカンイルに近づくという「誘惑」作戦も、橋の欄干の上に立ち消防署員を脅す「脅迫」作戦も、カンイルには通じない。警察署で、ミスは、「義勇消防隊募集」のポスターに目をつけ、ハヨンを誘い応募する。二人は、ソチョ(瑞草)消防署に配属されるが、消防隊員たちは、肉感的なハヨンに首ったけのようだ。新入り義勇消防隊員ミスとハヨンの歓迎会が開かれるが、皆が帰りカンイルとミスが二人きりになると、ミスが失神する。すぐに気がついたミスはカンイルを居酒屋に誘い、二人は泥酔、隣の他の客に絡み、警察沙汰に…警察署では、絡まれた客に、消防署の隊長・隊員たちも参戦して、大騒ぎだ…

消防隊員カンイルに、映画経験は少ないながら「超能力者」「高地戦」と着実に存在感を増していくコ・ス、わがままな女医ミスに、「アドリブ・ナイト」「素晴らしい一日」という女流日本人作家作品の映画化で素晴らしい存在感を見せたハン・ヒョジュ、消防署隊長に、肉体派でありながら最近とみに魅力を増しているマ・ドンソク、消防隊員ヨンスに、最近映画出演が続く名脇役キム・ソンオ、ヨンスに思いを寄せる女性消防隊員ヒョンギョンに、キュートなチュニ、色っぽい女医ハユンに、「イブの誘惑-良い妻-」でその肉感的な裸体を惜しげもなく曝したチン・ソヨン、入れ墨夫に、どう見てもやくざ風の名脇役チョ・ギョンフン。特別出演では、ミスに入れ込むオ刑事に、名優チョン・ジニョン、同じくパン刑事に、やはり名優ヤン・ドングン。

秀作メロ「エジャ(邦題:グッバイ、マザー)」のチョン・ギフン監督第2作ですが、個人的には、全く受け入れられなかった「私の頭の中の消しゴム」と似た感覚があります。その、人の生死や重篤な病いを恋愛事情と絡める作風には、まず、違和感が先立つことになります。特に、上の粗筋で書いた序盤の面白なさは、群を抜いているでしょう。全く個人的な推測ですが、250万人の観客の内、凡そ1割は、耐えきれず、始まって30分しない内に劇場を出たのではないか、と邪推させる程の出来です。中盤からは、様々な事故・救出劇が話を盛り上げていく訳ですが、それも、果たして250万人という観客数に似合うものなのかは、いささか、首を捻らざるを得ない感じです。ただ、「私の頭の中の消しゴム」との決定的な違いが二つあります。まずは、主人公二人を巡る人々の描き方です。本作では、群像劇とまではいかないまでも、周辺の人物が丁寧に描かれていて好感です。特に、マ・ドンソク演ずる隊長、キム・ソンオ、チュニらが演ずる隊員、或いは、無茶苦茶キュートなチン・ソヨンや入れ墨男チョ・ギョンフン、さらには、特別出演の名優、チョン・ジニョン、ヤン・ドングン辺りを細かいエピソードで描くことによって、物語の奥行きがぐっと深まっていると感じます。もう一つは、ハン・ヒョジュの体当たりの名演です。彼女のキャラには似合わない、軽薄で悪意さえ感じさせる自己チュー女医ですが、殆どスッピンのメイクで生々しく熱演する姿は、必ずしも深いとは思えないシナリオに、想像以上の生気を与えていると思います。彼女が主演でなかったならば、途中挫折していた可能性は極めて高いでしょう。

本作のコメディとシリアスのバランスが肌に合わない方も多いのではないかと想像されますが、珍しいコ・スのコメディ演技や、硬軟自在のハン・ヒョジュ、或いは、多彩な脇役陣を楽しむことは、充分可能なのかもしれません。でも、本当に250万人もの観客が足を運んだのかなぁ、と、何となく、居心地の悪い作品ではあります。

印象に残った会話を一つ。消防隊員たちの会話。隊長が訊きます。「父親と母親が溺れていたら、どちらを助けるか?」。答えは、「自分に近い方」だそうです。残酷だとは思いますが、正しい答えなのかもしれません。