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18禁ながら120万人を超えた、エロティック・コミカル・サスペンス、「カンギナム (姦通を待つ男)」。

ラブホテル街の一室で繰り広げられる濃密な会話。盗聴されたその会話に聞き入るのは、それぞれの連れ合いだ。2年間の停職中刑事で姦通専門の探偵カン・ソヌは、二人に、連れ合いたちを姦通罪で逮捕したいか訊ねる。追加手当を得たソヌは、両方の家族と警官を連れ、ラブホテルの一室に突入する。韓国には45,000軒の連れ込みがあり、教会より多い。ソヌの仕事の種は尽きない。三日後に警察への復職を控えた日、美しい夫人キム・スジンが事務所を訪れる。旦那が浮気しているという。助手のプンは嫌な予感がすると躊躇するが、ソヌは最期の仕事と引き受ける。そんな時、ソヌは妻のヘヨンに呼び出される。喫茶店に行くと、ヘヨンは離婚届を出し、ソヌに判を押せと迫る。2年前姦通専門の刑事でありながら自ら姦通の疑いをかけられ停職になって以来、ソヌは離婚を迫られているのだ。ソヌは曖昧な返事しかしない。キム・スジンの夫ナム・ヨンギルは、シンガポールやフィリピンにカジノを持つ大金持ちだ。ヨンギルを尾行するソヌは、ヤンピョン(楊平)にあるオールイン・モーテルに辿り着く。ヨンギルの部屋は303号室だ。ソヌは隣の302号室を取り、間違ったふりをして303号室のベルを押すが、ヨンギルの背後には美しい女の後ろ姿が見える。ソヌは、妻のキム・スジンを呼び出す。逡巡するスジンは缶ビールを取り出しソヌと二人で飲むが、ソヌはそのまま寝込んでしまう。深夜、ソヌが目覚めると、ベッドの隣には血まみれのキム・スジンの遺体がある。さらに隣の303号室から悲鳴が聞こえ、駆け込むと、ベッドに血まみれのヨンギルの遺体と、その脇で震える美しい女がいる。聞くと、その女はヨンギルの妻キム・スジンだと名乗る。一人の美女と二つの死体。進退窮まったソヌは死体を始末することを決意し、プンを呼び寄せ、殺人現場をクリーニングし、死体を山林に埋める。二日後、キム・スジンは夫の失踪を警察に届け出て、復職したソヌはその捜査に参加し、独自に真犯人を捜し始めるが…

停職中の姦通専門刑事で姦通専門探偵カン・ソヌに、もはや韓国映画界を代表する俳優だと云っても過言ではないパク・ヒスン、妖艶な人妻キム・スジンに、人形のような容貌に豊満なラインのアンバランスに圧倒されるパク・シヨン、離婚でもめるソヌの妻ヘヨンに、アートな作品で魅力を発揮し続ける演技派美形チャ・スヨン、刑事では、人情派サ班長に、超のつく名優イ・ハヌィ、とぼけたソ刑事に、何でもこなすキム・ジョンテ、ソヌに疑いの目を向ける二枚目ハン刑事に、イケメンのチュ・サンウク、キム・スジンの夫で資産家ナム・ヨンギルに、ベテラン脇役チョ・ウォニ、ソヌの助手プンに、「平壌城」辺りから急に存在感を増す長身イ・グァンス、ジムのインストラクター、イ・ジングクに、個性派脇役キム・ユンソン、もう一人のキム・スジンに、全く情報が見当たりませんがやはり妖艶なユンジェ。友情出演では、浮気妻に、迫力の演技派チョン・スギョン、鑑識課刑事に、お馴染みキム・ジョンハク。

この作品はキム・ヒョンジュン監督の第二作ですが、第一作は、ソル・ギョング、リュ・スンボムを主演に迎えここ数年で最も完成度の高い猟奇スリラー「容赦はない」。そのためこの作品も早くから注目していましたが、その出来ばえは全く期待を裏切りません。監督はこの作品を「氷の微笑」へのオマージュだと述べたそうですが(ですから勿論あのシーンもあります)、それも良く分かりますが、個人的には、ロジャー・ドナルドソン監督「追いつめられて」のサスペンスの構成に似ていると思います。夫のベンツが見つかり、二人の遺体が見つかり、助手プンや探偵事務所も見つかり、さらには遺体の中に残るDNAまで…という時間軸に添ってどんどん追い詰められていくソヌたちの恐怖の描写は実に見事です。勿論「氷の微笑」の持つ猟奇性や官能性も備えていますが、さらに見事なのは、それに加ええも言われぬユーモアをまぶしている所です。そのためパク・ヒスン、イ・ハヌィ、キム・ジョンテといったコメディもこなす演技派が揃っているんだと思います。演技陣についてですが、初めてその美しい裸体をさらす実にビジュアルなパク・シヨンと何度か濡れ場を演じる主演男優が何故あのパク・ヒスンなのか?という疑問を持つ方がいても不思議ではないでしょう。パク・ヒスンのファンには叱られるでしょうが、美しい濡れ場に似合うイケメン俳優は韓国に掃いて捨てる程いるわけですから…個人的には、まさにこのキャスティングがこの作品の鍵で、生々しい存在感がありコメディもこなすパク・ヒスンならではの情緒が、この作品の針の穴ほどのストライク・ゾーンを突いていて、他の男優なら100万人は超えてなかったろうと想像します。他には、屈折した役ばかりの演技派チャ・スヨンのストレートな妻像も新鮮な驚きです。キャスティングを見れば、絶対彼女が真犯人だと思う観客が少なくないでしょうから…

前作「容赦はない」は猟奇スリラーという特殊なシチュエーションでのシナリオなので、あの空前絶後の物語も五つ星を付けられますが、本作は「姦通罪」という生々しいテーマの下で物語に多少の無理がないでもありませんので、ちょっと五つ星は躊躇します。とは云え、エロティック・コミカル・サスペンスとして絶賛することには、何の躊躇もありません。

ちなみに、「カンギナム(간기남)」というタイトルは、ポスターに説明があるように、「간통을 기다리는 남자(姦通を待つ男)」の頭文字を取った略語だそうです。日本語的に言うと、「姦待男」てな感じでしょうか。