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乃南アサの直木賞受賞作「凍える牙」を、韓国映画界屈指の演技派ソン・ガンホと韓国映画界で最もミステリアスな女優イ・ナヨンを主役に迎えて映画化、160万人を集めた傑作ミステリー、「ハウリング (日本では9月8日に「凍える牙」のタイトルで公開予定)」。

ソウル、マポ(麻浦)区、深夜。男が、橋の下の駐車場に停めた車の中で休んでいると、突然、下半身から炎が吹き出し、男と車が全焼する。その一部始終を一人のホームレスが目撃する。翌朝、マポ署強力課ソ班長率いる刑事たちが現場検証に追われている。身許は不明、ナンバーも未登録、指紋も燃焼促進剤も見あたらない。そこへ巡察隊(交通機動隊)から配転してきた女刑事チャ・ウニョンが現れる。ソ班長は、サンギルにウニョンと共にこの事件を担当するように命じるが、サンギルは、単なる自殺事件に見えることと、ウニョンが女だということで露骨に嫌がる。二人は、検屍結果を聞きに行くが、大腿部に大きな犬の噛み跡が見つかり、尿からはハバと呼ばれる新しい覚醒剤が検出される。科捜研に回ると、技官は、ベルトから燃焼促進剤の過酸化ベンゾイルが検出され、ベルトのバックルには小型の時限装置が組み込まれていたと言う。明白な殺人だ。ところが、サンギルはこのことを班長に報告しない。殺人と決まればチームが結成され、手柄を独占できないからだ。ウニョンは報告すべきだと食い下がるが、出世が遅れ焦るサンギルは聞く耳を持たない。二人は裏町でヤクの売人を締め上げ、被害者の身許に辿り着く。被害者の家は表向き美術教室だが、隠しドアの向こうにはコスプレ売春の部屋が並んでいる。売春婦のリストは、未成年の少女ばかりだ。そんな矢先、帰宅途中のサラリーマンが獰猛な犬にかみ殺される。彼にも、麻薬と少女売春の前科があった…

男手一つで息子と娘を育てるうだつの上がらない刑事チョ・サンギルに、韓国映画界で一二を争う名優ソン・ガンホ、バツイチで孤独な女刑事チャ・ウニョンに、ヨン様の妹を演じた頃からの大ファン個性的な美貌イ・ナヨン、ソ班長に、味わい深い名脇役シン・ジョングン、同僚刑事ヨンチョルに、「解決士」などで見事な演技を見せるイ・ソンミン、同僚刑事キョンスに、「許されざる者」で注目して以来順調にキャリアを伸ばす個性派脇役イム・ヒョンソン、元警察犬トレーナー、カン・ミョンホに、渋いチョ・ヨンジン、その娘チョンアに、「ソニー」などのキュートなナム・ボラ、科捜研技官に、恐らく最多出演本数を誇ると思われる名脇役チョン・インギの顔も見えます。

原作を読んでませんし、ソン・ガンホ「渇き」の印象が強かったりして、観る前は超常現象物かな、との印象もありましたが、純正のサスペンス・ミステリーです。自然発火に猛獣の噛み跡、というセンセーショナルな出だしに、息子に手を焼く俗物やもめ刑事と女性故に疎外されるバツイチ刑事が登場し、さらに覚醒剤と少女売春という背景まで現れて…っと、実に見事な展開を見せます。恐らく、この辺りは原作の魅力なんでしょう。監督は、「卑劣な街」「霜花店(サンファジョム)」など骨太な作品で知られるユ・ハ監督ですが、緊張感溢れる原作を得て、緻密に、ダイナミックに映像化していきます。細かいところまで再現された映画美術も凄いのですが、やはり主人公の一人とも呼べるチルプン(疾風)という名の「狼犬(ヌッテゲ:狼と犬の交配種)」が極致でしょう。調教に馴染まない本物の狼犬、調教された一般犬、精密に作られた模型の三つを使い分けて演出したそうですが、狼犬の登場シーンがチープだったら、映画の質はボロボロになっていた筈です。特に、本物の狼犬の表情は、まるで名優の演技を観ているようで、吸い込まれそうになります。役者では、「殺人の追憶」トゥマン役以来の刑事役を演じたソン・ガンホですが、トゥマン役を超えた、とまではいきませんが、さすがの安定した存在感を見せてくれます。一方のイ・ナヨンは、この作品のために大型バイクの免許を取り、恐らく俳優人生で初めての激しいアクションシーンに挑んでいて、クールな革ジャン姿もあって、ますますファンになった、と云えるでしょう。

9月に日本公開されるそうですが、日本人作家の映画化ということがあっても、ソン・ガンホとイ・ナヨンという韓流とはほど遠い俳優陣なので、興行成績は期待できないかもしれません。やはり原作の力が大きいことや、最近大ファンのイ・ソンミンが余り良い役じゃないこともあって、五つ星は見送りますが、出来るだけ多くの日本人に足を運んでもらえたらなぁ、という感じが強く残る作品です。

ちなみに、恒例のカラオケシーンがあって、イ・ナヨンとソン・ガンホが上手いにはほど遠い歌声を披露していますが、イ・ナヨンは、2004年ソ・ヨンウン「一人ではない私(혼자가 아닌 나)」、ソン・ガンホは、2008年ペク・チヨン「銃に撃たれたように(총맞은것처럼)」です。