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昨年の100万人超え作品を12本観てきましたが、ついに底をつきました。しばらくは、昔みたいに役者や監督のつながりで映画を観ていきます。今回は、渋いイ・ギョンヨンつながりで、ソン・ガンホ主演、「青い塩」。

青く美しい塩田が広がる中、トゥホンとセビンが対峙している。セビンのワルサーP-38は、ピタリとトゥホンの胸に向けられている。そして、殺し屋Kのライフルもまた、スコープにトゥホンの頭部を捉える。そして、一発の銃声。トゥホンは、塩田に倒れ込む…ソウルの病院。車にはねられたチルガク(七角)会マンギル会長を、組織のボスたちが見守る。マンギル会長は、虫の息で「トゥホンを連れて来い」と命じる。釜山。かつてはチルガク(七角)会の大物だが、今は組織を抜けレストラン開業を夢見るトゥホンは、堤防に腰を掛け美しい広安大橋を眺めている。トゥホンが料理教室に着くと、見慣れない生徒がいる。美しいが無口なセビンだ。ボスの一人キョンミンとかつての右腕エック(独眼)がトゥホンの家を訪れ、トゥホンは覚え立ての鯛料理でもてなす。といっても、ただ鯛が入ったラーメンで、キョンミンは顔をしかめ、エックは真新しい包丁をお祝いに残して去る。トゥホンは、いきなりパンマル(タメグチ)をきき、革ジャン、スモーキー・メイクでオートバイを飛ばすセビンに興味を持つが、セビンは、地元やくざヘウンデ(海雲台)組にトゥホンの動静を報告する。組への多額の借金のため、脅されてトゥホンを監視しているのだ。そんな時、エックからマンギル会長の死が伝えられる。会長の遺言書が見つからず、ボス達の間で後継者争いが起きそうな状況で、会長の交通事故もボスの誰かが仕組んだことらしい。小さな船ドックの片隅では、セビンが実弾の弾頭をある結晶に付け替えている。船ドックの主人ユクは、銃の密売で生計を立てており、射撃の非公式アジア記録を持つセビンのコーチだった男だ。そんなユクの所へ、殺し屋の元締カン女史が訪れ狙撃銃M24を手に入れたいと言う。そんな時、ソウルからトゥホン抹殺指令が下され、間もなく、トゥホンは車にはねられるが…

引退した組織の大物トゥホンに、韓国三大男優の一人ソン・ガンホ、美貌の射撃手セビンに、「アコースティック」「オガムド」など癖のある演技が魅力の美少女シン・セギョン、銃の密売屋ユクに、こういう役はうってつけオ・ダルス、トゥホンの忠実な右腕エックに、兵役のため久しぶりのチョン・ジョンミン、殺し屋の元締めカン女史に、怖いほどのカリスマ性ユン・ヨジョン、冷徹な殺し屋Kに、韓国映画は久しぶりの野性的な二枚目キム・ミンジュン、ボス候補者にも個性派が揃っていて、重鎮チェ顧問に、渋いイ・ギョンヨン、弁護士キョンミンに、知性派悪役ぶりが見事なイ・ジョンヒョク、古いタイプのキチョルに、悪漢の貫祿たっぷりキム・ルェハ。セビンの親友ウンジョンに、キュートなイ・スム、料理教室の講師に、チャン・ジン作品常連チャン・ヨンナム。

ソン・ガンホと云えば、前作「義兄弟」が余りに不出来だったので、余り期待しすぎないよう恐る恐る観た訳ですが、今回は絶品です。ソン・ガンホの演技自体は相変わらず見事なのですが、「イルマーレ」のイ・ヒョンスン監督が彼のために素晴らしい映画空間を作り出しているので、スクリーンの中にピタリと嵌まり燦然と輝いています。「イルマーレ」の感想を読み直すと「ポスト、スパゲッティ、ワイン、父親の遺作集とかの小道具もセンス良く」とありますが、本作も実に味わい深い小道具が雰囲気を作り上げています。まずは「塩」。塩田やナゾナゾや「或る物」へと姿を変えながら、物語の頑丈な背骨になっているでしょう。もう一つは「料理」。様々な食事シーンは、物語に軽やかなリズムを与えていると思います。ストーリーそのものは多少大味(オオアジ)な感じも拭えませんが、それとて、プリクラすら映画の小道具にしてしまうこの監督の語り口にかかると、実に繊細で奥行きのあるものに変貌するので侮れません。演技陣も監督の期待に寸分違わず応えているでしょう。ソン・ガンホは云うまでもありませんが、相手役シン・セギョンが圧巻です。美少女子役が華麗な蝶として羽ばたいた、って感じで、当分は目が離せない女優でしょう。「義兄弟」と圧倒的に違うのは、主演二人を囲む演技陣の見事さです。監督は決して主演二人だけで映画を作ろうとせず、層の厚い演技陣全体に目を配っています。イ・ギョンヨン、イ・ジョンヒョクといった怪しいボス達、忠実な右腕チョン・ジョンミン、カリスマ溢れる殺し屋の胴元ユン・ヨジョン、ニヒルな殺し屋キム・ミンジュン、哀愁と可笑しみたっぷりの武器密売屋オ・ダルス、などなどが総力を挙げて映画の雰囲気を盛り上げていくことで、ますます主演二人が光っていく、という感じです。

500万人を超えた「義兄弟」に比べると7分1程度の観客しか集まらなかったようですが、映画の魅力は10倍どころではすまないと感じます。単に、相手役が魅力ある女優だという助平心からだけかもしれませんが、いずれにしろ、危うく自分の中で韓国三大男優から落っこちそうになったソン・ガンホの(私的な)復活作品として、言祝ぎたいと思います。ただ、所詮、映画は好き嫌いです。昨日から日本でも公開が始まっているので、ご自分の目で確認されるのもありでしょう。

本作品に関しては、書き残しておきたい「ちなみに」が四つもあります。お許しください。

ちなみに、本作品には、ナゾナゾが二つ出てきます。一つ目は、トゥホンからセビンへ。「人が食べると美味しいのに、自分が食べると美味しくないものは?」セビンは即答します。「골탕(牛の脊髄を使ったスープ)」辞書をひけば、すぐに意味は分かります。二つ目は、セビンからトゥホンへ。「最後に『クム(금)』の付く人生で大切な三つの言葉は?」セビンは二つ教えてくれます。「ファングム(黄金)、ソグム(塩)」がその時、邪魔が入って…さて、三つ目は…

ちなみに、二人が観に行く映画は、大傑作「サニー」。映っているのは、まだ「サニー」というグループ名がついていないチュヌァ達が、ライバル・グループ「少女時代」と決闘する爆笑シーンです。

ちなみに、恒例のカラオケ・シーンがありますが、セビンが歌うのは、大ファンの2NE1 "Fire"。トゥホンが歌うのは、1976年のチャン・ヒョン(장현) "私が君に(나는 너를)"です。

ちなみに、映画では、スマートフォンのアプリが重要な役割を果たします。一つは、<WeWhere>。親しい相手の居場所を表示する実在のアプリです。もう一つは、スマートフォン2台をコツンとぶつけると電話番号をお互いに登録し合うアプリ。果たして、このアプリ、実在するんでしょうか。