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今回は、キム・スミ、パク・チョルミンWつながりの100万人超え作品ということで、社会派コメディの逸品、「怪しい顧客たち」。

ソウル。破綻した生命保険の事務所では、オ・サンヨル部長が机を片づけている。小さなライブハウスではソヨンが弾き語りをしている。ライブハウスを出たソヨンはわずかなギャラを手にしているが、近づいてきた男にひったくられてしまう。ソヨンは男を追いかけるが、男は走ってきたゴミ収集車にはね飛ばされ、そして次々に車が衝突し、悲惨な多重事故となる。その中にはオ・サンヨル部長の車もある。この事故で、ひったくり男とゴミ収集員が命を落とす。2年後。チェイル(第一)生命保険の腕利き営業員ペ・ビョンウは、富豪だけを相手にする生命保険会社にスカウトされ有頂天だが、恋人ヘインは余り喜んでくれない。ピョンウの上司チンソクは、自殺による保険金支払いの増加で頭が痛い。韓国では、自殺が免責事由になる期間は2年だ。そんな時、ピョンウは顧客のファン社長から呼び出される。保険金支払いの条件を聞くためだ。ファン社長はピョンウの話を聞いた後、飲めない酒を無理やり飲み、地下鉄に身を投げてしまう。ピョンウは自殺幇助・教唆の疑いをかけられ、会社も契約の監査を強化する。この事件の混乱の中、ピョンウは、2年前のとある契約を思い出す。勤務していた生命保険会社が破綻したばかりの同業オ・サンヨルに紹介された三人の男女で、いずれも自殺未遂の過去があったが、営業成績に目が眩んだピョンウは会社に隠して契約したのだ。もし彼らが自殺したりすると、自らの不正がばれると考えたピョンウは、契約を年金タイプに変えさせるべく慌てて三人を捜しに出る。彼らの自殺免責期間2年が間もなく切れるのだ…

エリート指向の生命保険営業員ペ・ビョンウに、もはや名優の域リュ・スンボム、その親友で上司のパク・チンソクに、最近とみに哀愁コメディ演技が光るソン・ドンイル、恋人ヘインに、キュートなソ・ジヘ。元生命保険の部長オ・サンヨルに、今回は笑いを封印した韓国随一のコメディアン、パク・チョルミン。貧しい弾き語りシンガー、ソヨンに、日本での活動歴が長いユンナ、その弟ヒョクに、Youtubeでも人気の天才ギター少年チョン・ソンハ。四人の子供を育てる貧しい寡婦ポクスンに、今回は生活臭いっぱいのチョン・ソンギョン、彼女の長女チニに、今注目の美少女チェビン。ホームレス暮らしの青年ヨンタクに、長身イケメンのイム・ジュファン、その姉ヨンミに、『栄華館の艶女たち』などの美形ホン・ソヒ。特別出演では、ずる賢い雑貨店女主人に、韓国随一のコメディエンヌ、キム・スミ。

まずシナリオが見事です。一方の極に、身勝手なエリート生命保険営業員を置き、他方の極に、とある因縁に苦しむ貧しい四つの家族を置き、2年という期限後の自殺による保険金支払いという残酷な現実で結ぶ物語は、到底コメディとは呼べない重厚な語り口を生み出していきます。叱られるかもしれませんが、フランク・キャプラの一連の社会派ドラマ、特に自殺をモチーフにした「群衆」を色濃く思い出させたりします。ただ決して悲惨なだけにならないのは、四つの家族との関わりに七転八倒する主人公とその上司のドタバタを巧みに組み入れているためで、この物語のリズムは、個人的には絶品だと思います。そして、リュ・スンボムが、他の役者では考えられない位の適役です。身勝手なエリートが過酷な現実に翻弄されながら次第に人間性に目覚めていく物語は少なくありませんが、その中でも一級品の演技と云えるでしょう。貧しさから守るべき家族のために苦しむ四人の契約者を演じるパク・チョルミン、ユンナ、チョン・ソンギョン、イム・ジュファンも生々しい演技を見せて見事ですが、注目はソン・ドンイルです。特に物語を左右するような役柄ではありませんが、あたかも狂言回しのように定期的に現れて馬鹿をやっては、重くなりがちな物語に絶妙なリズムを与えていると思います。ユンナの美しい弾き語りも、「マグノリア」におけるエイミー・マンを思い出させる程に、実に巧みに使われていると思います。

この映画のシリアスと笑いで組み上げた独特のリズムは、観る人を選ぶかもしれませんが、個人的には、自殺による保険金支払いという重苦しいモチーフに対して、冒頭の多重事故での因縁を核とする巧みな物語展開、役者たちの熱演、いずれも文句なしです。五つ星でしょう。

ちなみにキム・スミですが、釣り銭詐欺まがいの強欲ばあさんといった役で2度ちらっと登場するだけです。ところが、後から考えると、実に心優しい役割を果たしていることに気づきます。洒落た登場の仕方だと思います。