つながり無視のついでに、これからしばらくは、溜まっている未見の日本版DVD作品を観ていきます。まずは、或る母娘を中心に据えた赤裸々なファミリー・ドラマの秀作、「同居、同楽 (Happy Together)」。
いつもの朝食。二人暮らしの母チョンニムは、娘ユジンから美術学校の卒業製作でヌードを描かせてほしいと言われ困惑する。母チョンニムは、旧友の作家キョンミらと飲み会だが、若い「男」と家を出た夫の話が出て、またしても困惑する。美術学校では、娘ユジンが、ボーイフレンドの同級生ピョンシクに、ホストクラブのバイトを辞めてほしいと懇願している。一方、母チョンニムたちの飲み会は、ピョンシクが勤めるホストクラブで盛り上がる。あろうことか、おばさん仲間が無理やり母チョンニムにピョンシクを押しつけ、二人はホテルに向かう。同じ頃、娘ユジンは、寂しい母親へのプレゼントに、ディルドを品定めしている。翌朝、ピョンシクが家に帰ってくる。家には、半裸の母親キョンミと若い同僚のホストがいる…
A家。母チョンニムに、『パリの恋人』ボディエ夫人役以来隠れファンの美形熟女キム・チョン、その娘ユジンに、『白雪姫』変な日本娘役以来かなり応援しているキュートなチョ・ユニ、ゲイの父親に、普段の重厚な役柄からは想像できないチェ・ジョンウ。B家。ユジンの恋人ピョンソクに、最近とみに演技の幅を広げるキム・ドンウク、ピョンソクの父親に、83年「女と男 愛の終着駅」でしか観たことがない80年代の人気俳優チョン・スンホ、母親の作家キョンミに、あくの強い名脇役キル・ヘヨン。
この映画を簡単に整理すると…父母娘のA家と父母息子のB家という6人の登場人物がいて、A家娘とB家息子が恋人関係、A家母とB家息子が行きずりの関係、A家母とB家父が初恋関係、しかも両家の夫婦とも離婚・別居状態、ってな感じです。こう書くと、いかにも下手くそな因縁メロみたいに見えますが、実に見事なシナリオにまとめあげられています。最近とある数学パズルの本を読み、Aはxという事実を知っている、Bは「Aがxという事実を知っている」ことを知っている、という関係は、「共通知識」「共有知識」という論理学的な命題を構成することを知ったわけですが、この映画は、まさに6人の登場人物が、それぞれの関係(過去の事実も含め)で、知っていること、知っていることを知っていること、そして知らないこと、が縦横無尽にぶつかり合い、練り上げられた人間臭いドラマを作りあげます。勿論、全然理屈っぽい話ではなく、セックス、ディルド、同性愛、とか体臭が漂ってきそうな生臭い人間模様を描いているわけで、とても20代後半の女流監督のデビュー作品とは信じられない出来ばえです。役者では、6人とも完璧ですが、やはりアラフィフの魅力を炸裂させるキム・チョンの魅力、そして、アラサーながらぶっ飛んだ女子大生を演じるチョ・ユニの魅力が圧倒的でしょう。二人が演じる母娘像は、極めてドライでいながらウェット、極めてクールでいながらダル、といった万華鏡のような変化を見せて圧巻です。
いかにも「作り物」っぽい作品であることは間違いありませんが、赤裸々なシナリオと肌感覚の演技が見事にマッチして、現代家族のある断面をビビッドに描くことに成功した秀作だと思います。とは云え、日本版DVDが出ていること自体、かなり不可思議ではあります。