イメージ 1

 


WOWOWで放映されたので、ホン・サンス作品に割り込んで、ムン・ソングンつながりの、「冬の小鳥」。

1975年、チョンジュ(全州)。下町を父親と9歳の娘チニ(真姫)が乗った自転車が走っていく。父親はチニに真新しい洋服と靴を買い与え、二人はプルコギを楽しむ。ソウル近郊をバスが走り、二人は、いかめしい鉄の門の前に着く。父親はチニを少女専門の孤児院に預けに来たのだ。父親が去った後、捨てられたという事実を受け入れられないチニは、食事を拒み、脱走を試みるが、幼い少女に出来ることは何もない。最年長で足が不自由なイェシンやアメリカ人の養子になることを夢見るスッキらの助けもあり、チニは少しずつ孤児院での生活に慣れていくが…

薄幸の少女チニに、この後ウォンビン主演「アジョシ」でも驚くべき名演を見せる天才子役キム・セロン、最年長の孤児イェシンに、すっかり大人びた「グエムル」などの元天才子役コ・アソン、先輩孤児スッキに、ミュージカル出身の子役パク・トヨン、少女たちに厳しい保母に、イ・チャンドン監督作品などの個性派脇役パク・ミョンシン、チニの父親に、イ・チャンドン監督作品常連で韓国で一二を争う名優ソル・ギョング、少女たちを診る医師に、イ・チャンドン監督「グリーン・フィッシュ」では主演した重鎮ムン・ソングン。

監督は、自身1975年9歳の時にフランス人夫妻の養子に行き韓国語を失ってしまったという女流ウニ・ルコント監督で、名前のウニ(Ounie)は「銀姫」なのかもしれません。制作にはあの名監督イ・チャンドンの名前があり、脚本にも手を貸したと言います。観た感じに一番近いのはルネ・クレマン「禁じられた遊び」です。孤児、十字架、ラストの雑踏…そんなものが、やはり幼い少女には余りに重すぎる現実を描いた50年程前の名作を鮮やかに思い起こさせるのでしょう。演出が見事で、序盤、少女の目線の高さで撮られた画面の圧迫感や、あの名優ソル・ギョングを1カット以外は顔を撮らないなど、凝った手法を使うことで少女のえも言われぬ恐れを生々しい肌感覚で描くことに成功していると思います。それにしても、キム・セロンの名演がこの映画の価値の多くを占めることに異論は少ないでしょう。殆どのシーンで口を固く閉じて自身の殻に閉じこもっていますが、時に嗚咽し、稀には美しい笑顔を見せる、その演技力は圧倒的だと云わざるを得ません。その薄幸な少女を演じる力量は次作「アジョシ」でも遺憾なく発揮されています。孤児仲間を演じるコ・アソンとパク・トヨン、厳しい保母を演じるパク・ミョンシンも作品に深い陰影を与えていて、言及しておくべきでしょう。

何の前提知識もないまま観終えた時には、何故西洋人が東洋を舞台にこんな残酷な話が描けるのか、と半ば憤りに近いものを持ったのも事実ですが、母国語を捨てることになった女流監督の自伝的要素を持った映画として、その完成度は十分五つ星に値する、と今は考えます。

ちなみに、序盤と終盤でキム・セロンが二度歌う歌は、日本にも縁の深いキル・オギュン(吉屋潤)が作詞・作曲し、ヘウニが歌った「あなたは知らないでしょう(당신은 모르실꺼야)」。後に、イ・ヒョリ、ソン・ユリなどのピンクル(FIN.K.L)がリバイバル・ヒットさせています。